歪んだ月が愛しくて1
「でもこれうちの生徒ってことはねぇの?」
「よく見て下さい、彼等の服装を」
「服装?」
九澄に指摘されて食い入るようにパソコンのディスプレイを覗き込む陽嗣の頭を後ろから叩く。
「制服じゃねぇだろうが」
「痛ってぇな!後ろから狙うんじゃねぇよ!てか着替えたって可能性もあんだろうが!」
「喚くな。それに今は新歓の真っ最中だ。全校生徒強制参加で制服着用が義務付けられてる中着替える必要がどこにある」
「でもよ、抜け出してどっか遊びに行こうとしてるのかもしれねぇじゃん」
「コイツ等の動きを見ろ。外から内に向かってるだろうが」
「……確かに」
「それに映像が映る前に遠くの方でエンジン音が聞こえてましたから外から来たことは間違いないでしょう」
「つまりコイツ等の目的は学園内にある何かってことか」
「映像はこれだけか?」
「残念ながら…。誤作動だと判断した風紀が一時的にカメラの映像を切ってしまったらしく、それでシステムに影響が生じて現在は復旧作業にあたっています」
「事後報告かよ」
「彼等らしいじゃないですか」
「大丈夫かようちの風紀は…」
「さあ、どうでしょうね」
「てかこの映像しかねぇってことは正確な人数は分かんねぇってことか?」
「はい。加えて侵入者の目的が分からないので対処の仕様が…」
「盗人じゃねぇの。うちって至るところに金目のもんばっかじゃん。若しくは下着ドロ」
「ここ男子校ですよ?」
「それだけ変態さんってことだろう」
「変態かどうかを見極める前にこのことを早く未空と立夏くんにも伝えないと」
「………」
金銭目的の窃盗、性犯罪…。
考えれば考えるほどキリねぇがどれもしっくり来ない。
そこに九澄のスマートフォンが着信を知らせる。
「はい。……は?……それは、本当ですか?」
どうやら穏やかな内容じゃないようだ。
それは陽嗣も感じ取ったようでスッと目を細めて九澄の電話が終わるのを待った。
「……誰?」
そこじゃねぇよバカ。
「番犬さんですよ。裏庭で怪我を負って気絶していた複数の生徒を保護したようです」
「襲われたのか?」
「間違いなく。それも襲われた生徒は皆肝試しで脅かし役に選ばれた生徒のようです」
「裏庭で侵入者と遭遇しちゃったってわけね」
「襲われた奴の証言は?」
「現在まで意識が戻らないようです。そちらをアテにするのは時間の無駄かと」
「……奴は見てないのか?」
「そのようです。彼に処理を頼みますか?」
「待機だ。まだ情報が足りな過ぎる…」
この現状で奴に処理させて真実を揉み消されるのは痛い。
奴に全てを任したらこっちに回って来る前に使い物にならなくなっているのは目に見えている。
俺の庭を好き勝手荒らしたからにはそれ相応の報いを受けてもらわねぇとな。
「確かに侵入者の目的が判然としない以上こちらから積極的に動くのは得策とは言えませんね」
「やらしときゃいいのに…」
「貴方、それ言ったら外道ですよ」
「冗談だって」
複数の侵入者。それを誤報と判断した風紀。襲われた生徒。
映像がこれしか残ってないってのも気になる。
「……嫌な予感がする」