歪んだ月が愛しくて1
立夏Side
「おーい、月ちゃーん!風魔の奴はいなくなったぜ!」
「出て来てくれよ!」
男達が茂みの向こうに呼び掛ける。
するとガサガサと音を立てて黒い影が現れた。
「ふふっ、待たせたね」
暗い森の向こうから声が聞こえる。
月明かりに照らされて徐々にその姿が浮かび上がる。
「風魔の野郎は予定通りいなくなったぜ」
「そう、ご苦労だったね」
月と呼ばれる人物の登場に周囲が盛り上がる。
その反応に気分を高揚させた月が俺を視界に入れてニヤリとほくそ笑む。
「これが藤岡立夏?」
俺を指差して「これ」扱いする、月。
それは間違いなく俺を見下す言葉だった。
「風魔のペアの奴なんだろう。だったら間違いねぇよ」
「ふーん…。近くで見ると本当不細工なんだね」
詰るような視線と傲慢な口調に不快感が募る。
会って早々初対面の人間をここまで不快にさせるなんて逆に凄い。
そう思って改めて月と呼ばれる人物をまじまじと観察する。
金髪のショートに小柄な体型、更に男にしては高い声色から一瞬性別を疑ったが俺と同じ制服を着ていたことから男であることは間違いない。……良かった。
「まあでも僕は優しいから不細工なお前にもちゃんと自己紹介してあげるよ」
マジで凄いな。
最早人を不快にさせる天才か?
「僕は覇王親衛隊の幹部の恐極月。ツキと書いてユエと読むんだよ。どう?美しい名前でしょう?」
自分を美しいと豪語する月を横目に俺は希の安否が気になっていた。
頼稀が希を追って既に10分は経った。もうそろそろ時間稼ぎもいいだろう。
俺の中の限界が近い。月の妄言も、俺の中に眠る獣も…。
「知ってる?名前が美しければその人間の容姿も心もそれと共鳴して美しくなるものなんだよ。まあ君のような野蛮な人間には到底分からな…「煩ぇよブス」
延々と自分語りを続ける月に耐え切れず本音が零れる。
自分の容姿に自信がある月からしたらさぞかし屈辱的な言葉だろう。
「な、な…っ!?」
案の定月は怒りに顔を真っ赤に染める。
ブスの単語が相当頭にキたようだ。ざまあ。
でもそれだけでは俺の気が収まらない。
「久々にキレそうだわ…」
木々が生茂る深い裏庭に頭上から月明かりが差し込む。
闇を纏うような漆黒の髪が一瞬だけキラキラと輝いて見えたと、後の目撃者はそう語った。