歪んだ月が愛しくて1
立夏Side
「よっわ」
男達から奪った鉄パイプを地面に放る。
カランと音を立てて転がるのを見て次第に冷静さを取り戻して来た。
……危なかった。
一瞬飲まれるかと思った。
久しぶりの感覚に眩暈がする。
流れる赤も、呻き声も、凶器が風を切る音も、遥か遠い昔のように感じていた。
でもそれは間違いなく常に俺達の傍にあった。
際限なく過ごした狂気の夜を忘れることは出来ない。……いや、本当は忘れられなかった。ただ薄れていただけ。
彼等と過ごした時間が消したはずの僅かな希望を抱かせた。
でも久々に赤に触れて突き付けられた。
『…ごめん、シロ……』
俺と彼等の間を隔てる、分厚い壁に。
シュッと、不意に何かが飛んで来た。
それを軽々と避け飛んで来た方向を睨み付ける。
「……まだやる?」
「、」
月の顔が青褪めていくのが分かる。
「そ、んな、信じられない…っ」
震える唇が言葉を漏らす。
月は俺の動きに連動するかのようにビクビクと肩を震わせて一歩ずつ後退る。
「こんなっ、こんな奴に、僕の駒が負けるなんて…」
予想外の展開に月の顔には恐怖と困惑の色が浮かび上がっていた。
「有り得ない!こんなはずじゃなかったのにっ!」
「………」
「何なんだよお前!?一体何者なんだよっ!?」
……うっさ。
この状況でよく吠えるな。
さっきのあれ見てなかったのか?
喧嘩売って来た男達の方がまだマシだ。
空気が読めると言うか何と言うか、俺の殺気に気付いた最後の奴なんか自分の立場をよく理解していた。
狩る側が狩られる側に下った瞬間。あれは傑作だったな。
「希はどこにいる?」
「だ、誰がお前なんかに話すもんか…っ」
「二度も言わせんな」
月はジリジリと距離を縮める俺に怯えながらも年上としてのプライドから意地を張ってギュッと唇を堅く閉ざした。
自分の立場をまるで理解していない月の態度が気に入らず月の胸倉を掴んで乱暴に引き寄せた。
「希はどこだ」
「、」
鼻と鼻がくっつきそうな勢いで乱暴に扱う。
その瞬間、月の瞳が恐怖に揺れた。
……ああ、やっとか。
今頃気付くなんて遅い。遅過ぎる。
(愚かだな…)
そんな人間を見ると意識していないのに口角が上がる。
俺って性格悪いのかな?