歪んだ月が愛しくて1



恐る恐ると、堅く閉ざされた唇が何かを紡ごうと動く。
俺の逆鱗に触れぬよう言葉を選ぶ様子が見て取れる。



「……し、らない」

「あ?」

「佐々山くんには、何もしてない…」

「この期に及んでよくそんなことが言えるな」

「本当だよ!あ、あれは風魔くんを誘き寄せるための嘘だったんだ!」



そう言って声を荒げる月を冷たい瞳で射抜く。



「頼稀を誘き寄せる?」

「風魔くんはあの“B2”の幹部だぞ!僕が何人駒を用意したって風魔くんを相手にして勝てるかどうか分かんなかったし、“B2”の幹部に喧嘩売ったなんて知られたら何されるか…」

「そのために希を利用したのか?」

「そ、そうだよ!風魔くんと佐々山くんが幼馴染みで仲が良いのは皆知ってるからそれを利用させてもらったんだよ!」



“B2”の報復が怖かったと語る、月。
だから希を利用してまで俺と頼稀を引き離したかったと話すが、俺には月の言葉が到底信じられなかった。



「それを信じろって?都合良過ぎ」

「ほ、本当なんだよ!僕達は佐々山くんに何もしてない!信じて、信じて下さいっ!」

「………」



月は目に涙を溜めながら俺の腕に縋り付き懇願する。
その姿から嘘を吐いているようには見えなかったが、相手はあの覇王親衛隊の幹部だ。そう簡単に信じるわけにはいかない。
兎に角希が無事であることの証が欲しかった。



「嘘じゃない!佐々山くんには本当に何もしてないんだ!」



希が無事な保証が欲しいと言ったものの何を持って証明することが出来るのか分からない。
携帯は圏外で繋がらないから希に連絡することは出来ないし希を捜しに行った頼稀に確認することも出来ない。
だからと言って安易に月の言葉を鵜呑みにして希が見つからなかったことを考えると全ての元凶であるこの男をそう簡単に逃がすわけにはいかなかった。



「だから風魔くんに、尊様に…このことは…っ」



……ああ、この男は。

本当に自分のことしか考えていない。



「……黙ってて欲しい?」

「お、お願い!お願いします!尊様に知られたら僕は…っ」



俺の言葉に月は直ぐ様食い付いた。



自分だけは助かりたい。嫌われたくない。

そんな見え透いた魂胆に心底くだらないと思った。



「アンタ、本当救いようがねぇバカだな」



そう言い放ったと同時に俺の腕にしがみ付く月を乱暴に突き飛ばした。



「っ、何すんだよ!?」

「煩ぇよ。散々人をバカにして関係のない希までも利用した挙句、結局アンタは自分の心配かよ」



別に会長にチクって月を陥れるつもりはない。
でも人を玩具感覚で操るやり方や関係のない希を巻き込むようなやり方は許せなかった。



「アンタ等は覇王のためとか偉そうに大義名分並べてるけど、アンタがやってるのは覇王のためでも何でもない。テメーのくだらねぇ欲を満たすための捌け口にしてるだけだ」



例え月が言うように希を傷付けていなかったとしても。



「自分がやったことに責任を持てない人間が他人を傷付けるな」


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