歪んだ月が愛しくて1
「な、何なんだよ…っ」
月は地面に尻餅を付いたままギュッと唇を噛み締めて、俺に向けて地面に落ちている小石や木の枝を投げ付ける。
「僕に…、僕にこんなことしてただで済むと思うなよ!僕は恐極組の若頭だぞっ!」
恐極組?
「そんな態度取っていられるのも今の内さ!僕にこんなことをして組長や他の組員が黙ってるはずがない!きっと明日にでもここに奇襲が…っ」
「関係ない」
その一言で月の言葉を遮った。
眉一つ動かさず無表情のまま。
それが不気味だったのか月は青褪めた顔で俺から距離を取りジリジリと後退る。
「……わ、かってんのかよ。ヤ、ヤクザだぞ!逆らったらお前の命も大事なもんだって簡単に奪われるんだぞ!」
代わり映えのない脅しを無視して一歩ずつ月との距離を縮める。
大事なもの、ね…。
『なーに変な顔してんのさ?俺達もう仲間っしょ!』
「……そんなもん、ねぇよ」
俺を仲間と呼んでくれた人はもういない。
俺のせいで傷付けて、俺のせいでアイツは…っ、
……ダメだ。
飲まれるな。
過去に引き摺り込まれるな。
今は希のことだけを考えろ。
そう強く言い聞かせて視界に月を捉えると、不意に足元に温もりを感じた。
「にゃあ」
「にゃー?」
そこにいたのは猫だった。
まだ小さい、雪のように真っ白な子猫。
どこからやって来たのか子猫は俺の足首に擦り寄って離れなかった。
「、」
その姿に思わず息を飲んだ。
白くて、赤い瞳。
その姿はまるで…。
途端、俺の身体に変化が生じた。
背筋がゾッとして、ガタガタと膝が笑って嫌な汗が伝う。
蓋をしていた過去が俺の心を蝕む。
『―――化け物!』
きつく蓋をしていたはずなのに。
どうしてこんな時に…、
「僕を…っ」
「、」
カランと、その音にハッと我に返る。
子猫から視線を逸らして顔を上げると、目の前には金属バットを振り被る月がすぐそこまで迫っていた。
子猫は自分より大きな存在が大声を上げて迫って来たことで小さな体をビクッとさせて動けずにいた。
月の動きはお世辞にも俊敏とは言えないため容易に回避することは出来る。
利き足を一歩引き体制を整えて月の攻撃に対処しようとしたがあれを見た影響が未だ残っていて膝が笑って動けなかった。
「僕をバカにするなぁぁああああ!!」
金属バットが振り下ろされる。
俺は訪れる衝撃を覚悟して目を瞑り子猫を庇うように身を屈めた。