歪んだ月が愛しくて1
バキッと、鈍い音が響く。
俺の叫び声も虚しく金属バットは躊躇うことなく振り下ろされた。
月の真横にある木の幹がバリバリと剥がれ落ちる。
「…、………っ」
月は寄り掛かっていた木の幹に背中を預けそのままの体勢でズルズルと腰を抜かして地面に尻餅を付いた。
余程会長が恐ろしかったか、月の大きな瞳は涙で溢れ制服のズボンに染みを作った。
「これが直撃したら、死ぬぞ」
ゾッとするような冷たい瞳が月を捉えて無表情のまま言い放つ。
「テメーはこれを使って立夏を殺そうとした。しかも金でコイツ等を雇ってまでな」
「っ、」
会長は地面に蹲る男の1人を容赦無く足蹴りする。
男はピクリとも動かない。その顔面は既に原型を留めていなかった。
「つまりそれはテメー自身にも殺される覚悟があるってことだ。ましてやテメーは裏社会の人間。落とし前の付け方くらい分かってんだろう」
「……も、し訳ございません…。二度と…このようなことは致しません。藤岡、様には一切危害を加えません。なので、どうかご寛大な御心で…」
掌を返したような月の態度に流石の会長も嫌悪の表情を隠さず眉を顰める。
「ヤクザの落とし前の付け方ってのは謝って終いか?人殺して謝って済めば警察はいらねぇな」
「な、何でもします!僕を尊様の下僕にして下さい!僕ならきっと藤岡様よりもずっと尊様のお役に立てます!だからっ、だからどうか組ちょ…、実家にだけはこのことは…っ」
「テメーの落とし前も付けられない頭の悪い下僕はいらねぇ。それとこの学園にもな」
「そ、んなっ」
「新歓が始まる前陽嗣が警告したはずだ。立夏が生徒会の一員になったと。それにも関わらずテメーは立夏に手を出した。それが何を意味するか、……分かってるよな?」
「ヒィッ」
「安心しろ。今ここでテメーをどうこうするつもりはない」
今、ここではな。
そう言って会長は興味が失くしたように視界から月を除外し、金属バットを少し離れたところに放って俺の傍まで歩いて来た。
「会長…」
「バーカ、そんな顔してんじゃねぇよ。いくら俺でもそこまでするかよ」
「……会長ならやりかねないかと」
「あ?」
「嘘です」
冷たいとか、酷いとか、そんなことは思わない。
月の態度や言動は少し……いやかなりムカつくが、正直月のことなんてどうでも良かった。
俺が心配しているのは希の安否と会長の怪我のことだけだった。