歪んだ月が愛しくて1
守りたかったもの
「月様!」
腰を抜かして地面に座り込む月を冷たく見下ろす中、1人の男子生徒が俺達の前に現れた。
男は一目散に月に駆け寄るとその細い両肩を掴んで揺さぶった。
「ヒ、タキ…」
「月様っ、しっかりして下さい!」
ヒタキと呼ばれる男は膝が笑って立てない月を軽々と横抱きにする。
そして月を抱き抱えたまま会長に正対して頭を下げた。
「この度はご迷惑をお掛けし大変申し訳ございませんでした」
ヒタキは頭を下げたもののその言葉とは裏腹に淡々と言葉を並べた。
「謝罪すべき相手が違うんじゃねぇのか?」
「………申し訳ございませんでした」
そう言ってヒタキは俺に向かって頭を下げた。何とも苦虫を噛み潰したような苦痛な表情で。
そんな顔されたら嫌でも分かってしまう。
ただ恨まれる覚えはない。少なくともこの男には。
「もういい。とっととそれを連れて消えろ」
会長もヒタキの様子に気付いたらしく早々にこの場から遠ざけようとした。
ヒタキが月を連れて俺の横を通り過ぎた時、俺の耳に微かに届いたのは「―――許さない」と俺に対する恨みの声だった。
「はぁ…」
つくづく思う。
人から恨まれるのって才能なのかも。
(あの目…)
これまで何人もの人間に向けられて来たものと同じだった。
『―――化け物!』
あの目と同じ。
俺を嫌悪する目だった。
「おい」
その声に視線を上げようとした時、突然グイッと肩を掴まれた。
「何ボケッとしてんだ。行くぞ」
そう言って会長は痛みを感じさせない足取りでスタスタと歩き出した。
そのくせ。
「お前、怪我は?」
「……何言ってんの?怪我してんのは会長の方だろう」
人の心配ばかりする。
(理解出来ない…)
普段は俺様暴君の王様で人のことバカバカ言うお世辞にも性格が良いとは言えない人なのに、何でこう言う時だけお人好しの心配性を発揮するのかな。性格統一してくれないと扱い難いよ。
「あそこで寝てる連中はお前の仕業か?」
「……あ」
しまった。
アイツ等のことすっかり忘れてた。
「え、いや、これはその…」
「今更誤魔化しても遅ぇよ。お前が喧嘩っ早いのは知ってるしな」
「ゔっ…」
何も言い返せない。
まあ、会長と勝負した時に色々バレてるから今更誤魔化すだけ無駄か。
「で、怪我は?」
「……大丈夫」
いくら現役退いててもあんな雑魚共にヤられるわけがない。
その上心配までされるなんて…、会長の中の俺ってそんな軟弱な人間なのかね。
「足は?」
「足?」
「オニごっこの時に挫いてただろう。もう忘れたのか?」
「忘れてた…」
もう痛みは感じない。
そう言う風に上手いこと出来てんだよ、俺の身体は。
「痛くねぇのか?」
「うん、治った」
「………」
「何?」
「……戻ったら湿布貼れよ」
治ったって言ってるのに信じてねぇな。