歪んだ月が愛しくて1



初めは何を言っているのか分からなかった。
でも会長は俺の目を見てはっきりと言った。



「その自分が傷付くのは当たり前って顔」

「っ!?」



誤魔化しなんて一切ない鋭利な言葉がグサッと胸に突き刺さる。
そんな会長から目を逸らしたいのに真っ直ぐに俺を見つめる黒曜石が俺を捕らえて離さない。



「そ、なこと…」

「無意識かよ」



そう言って会長は舌打ちして俺に背を向けて歩き出した。



徐々に俺と会長の距離が広がる。



「あ…」



置いて行かれる?



『良い子にして待ってたら美味いもん買って来てやるぞ!』

『では行って来ます』



また…、



『…ごめん、シロ……』



「、」



途端、底知れない恐怖が俺を蝕む。



苦しい。苦しい。



……あれ?呼吸ってこんなにし辛いものだっけ?



水中から顔を出すように酸素を求めて手を伸ばすといつの間にか会長の制服の裾を掴んでいた。
そんな俺の奇行に会長はピタッと動きを止めて振り返り驚いたように目を丸くさせた。



「お前…」



無意識だった。

ただただ置いて行かれたくない一心だった。



それなのに先程まで感じていた恐怖も、息苦しさも、いつの間にか消えていた。



「あ、すいま…っ」



そう言って手を引っ込めようとした時、突然腕を引かれた。
その反動で俺の身体は会長の方に傾き気付けば会長の綺麗な顔が間近にあった。



次の瞬間、カチャと音を立てて眼鏡がずれたと同時に唇に熱い柔らかなものが触れた。



「んぅ!?」



突然のことに声を上げる間もなく、俺は会長にキスされていた。
驚きのあまり抵抗出来ずに目を瞑ると唇の隙間から舌を捻じ込まれ歯列をなぞられた。
ヌルリとした感触が口内を舐め回し巧みに舌を絡め取られる。
息継ぎすら許されないほど乱暴に口内を犯されるが不思議と苦しくない。怖くない。



「ん、ぅ…」



口付けは段々と激しさを増す。
慣れないキスに翻弄されて腰が抜けそうなほどだった。
突き飛ばしたくても頭の芯が痺れて金縛りにあったかのように身体が動かない。
まるで脳内を掻き回されているかのような濃厚な口付けに終わりが見えない。


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