歪んだ月が愛しくて1



「…はっ」



漸く解放された頃には腰に甘い痺れが走って膝が笑う。
俺は会長に腰を引かれるがまま怪我をしていない方の腕に支えられていた。



「な、で…」



ゴシゴシと濡れた唇を手の甲で拭う。
それでも唇や舌に残った生々しい感触は消えてくれなかった。



「お前のせいだ」

「っ、」



それは俺に対する拒絶の言葉。



『お前のせいで…っ』



あの日と同じ。



忘れられない。

忘れたいのに忘れさせてくれない。



あの色がちらつく。

俺から   を奪ったあの色が。



「無自覚なお前が悪い」



………ん?



「は?」



チュッと、唇と唇が触れた。

まるで俺の思考を遮るかのように。



「責任取れよ」



会長の大きな手が俺の頬をするりと撫でる。
触れられた部分に熱が篭って中々出て行ってくれない。
それを誤魔化すために会長の腕の中から逃げて目の前の元凶を睨み付けた。



「せ、責任って…っ」



責任取って欲しいのはこっちの方だわ!!



「行くぞ」

「あっ、ちょっと!行くってどこに…」

「帰るに決まってんだろう。いつまでもここにいたって仕方ねぇからな。それとも…」



会長は俺の耳元に唇を寄せて低い重低音を響かせた。



「まだ動けねぇのか?」

「っ!?」



かぁっと顔が熱くなる。
 
こっのエロボイスめ。



「んなわけ…っ」



会長の揶揄に顔の熱が冷めない。
怒りや羞恥心がごちゃ混ぜになって上手く言葉が紡げない自分に苛立ちが募る。



「動けねぇなら連れてってやろうか?」




そう言って会長は怪我をしていない方の手を差し出したが。



「結構だっ!!」



不敵な笑みと癪に障る言葉に会長の手を振り払ったのは言うまでもない。


< 328 / 552 >

この作品をシェア

pagetop