歪んだ月が愛しくて1
「だから歩けるって言ってんじゃん!」
「歩くのが遅ぇんだよ。チビは免罪符にならねぇぞ」
「誰がチビだ!標準よりだわ!」
「強がんな」
結局、俺は会長に引き摺られるまま裏庭を歩くことになった。
先程のこともあり出来ることなら半径5メートル以内には近付きたくなかったのだがどう言うわけか会長は俺の手を離してくれなかった。
「……俺だ」
会長は俺の手を引いて歩きながらスマートフォンでどこかに電話を掛ける。
通話口から漏れる声で電話の相手が未空だと分かった。
「立夏は確保した。今から連れて帰る」
しかも通話の内容からしてどうやら俺のことを探してくれていたらしい。
会長の腕時計を確認すると肝試しをスタートしてから既に2時間が経とうとしていた。
確かに2時間も行方不明だったら何かあったって思うのが普通か。
皆に迷惑を掛けて申し訳ないと思うと同時に希の安否が気掛かりだった。
「希はっ!?」
電話中の会長の腕を引いて声を上げた。
「希?」
「クラスメイトです!その電話の相手って未空ですよね?近くに希がいるか聞いてもらえませんか?」
「……だそうだ。聞こえたか?」
そう言って通話口の未空に呼び掛ける。
暫くして会長は電話を切った。
「あの、希は…」
「一緒にいるそうだ。風魔もな」
「本当!?」
「嘘吐いてどうすんだよ」
その言葉にホッと安堵する。
……良かった。本当に良かった。
「……嬉しそうだな」
「えっ、そ、そうかな」
「希って奴がどうかしたのか?」
「あ、実は…」
それから俺は肝試しの時に何があったのか嘘偽りなく会長に話した。
希を餌にされたこと、希の安否を確認するために先に頼稀が捜しに行ったことを。
すると会長は顎に手を当てて何やら考える素振りを見せた。
「成程な…」
「成程って?」
「あの場に風魔がいなかったわけが分かったんだよ。お前は本当お人好しだな」
「違いますよ。ただ俺が希を捜しに行ったところでどこにいるか見当も付かなかったし、幼馴染みの頼稀が行った方が効率が良いと思っただけ」
「そう言うのをお人好しって言うんだよ。他人のために損するタイプだな」
「だから違うって。それにお人好しなのは…」
ジッと、無言で会長を見つめる。
それに気付いた会長は訝しげな顔を見せた。
「……何だよ」
「別に」
人のこと言えないくせに。
お人好しなのはどっちだよ。