歪んだ月が愛しくて1
てちてちてち…。
背後から聞こえる小さな足音に何とも言えない気持ちが込み上げる。
「何か付いて来るんだけど…」
「お前に懐いてたからな」
「寮まで付いて来たらどうしよう」
「それくらい許してやれ」
「俺はいいけど寮的には不味くない?」
「………問題ない」
「いや、それ絶対嘘でしょう」
常識的に考えて問題ないはずがない。今まで不登校だった俺でもそのくらいの常識は分かる。
動物アレルギーの人とかいたらどうしよう。でも自発的に付いて来る分には仕方ないかと自分に言い聞かせて俺は会長に腕を引かれるまま裏庭を歩いていた。
「……あのさ、いい加減離してくれない?」
「………」
「え、無視?」
「無視」
「普通に聞こえてんじゃん!」
俺のツッコミも虚しく会長の足は止まらない。
道案内してくれるのは有難い。有難いけども、だからって手まで繋ぐことないと思うのは俺だけだろうか。
この歳になってまで子供扱いとか恥ずかし過ぎる。いくら迷子常習者だからってこれはない。痛過ぎる。
その上この男は俺に…、キ、キ、キ…っ
「嫌だぁあああ!!夢なら醒めてくれぇぇええ!!」
「煩ぇ」
突如奇声を上げる俺の頭に会長のチョップが飛んで来た。
「いきなりネジぶっ飛んでんじゃねぇよ」
ヒリヒリする頭を擦りながら会長を睨み付ける。
「誰のせいだと思ってんだよ!」
「あ?」
「会長が、あ、あああんなこと、するから…っ」
口に出すのも恐ろしい記憶が蘇る。
途端に鼓動が早くなり何とも言い難い感情が沸き上がる。
いくら初めてじゃないからとは言え脳裏に刻まれた記憶と生々しい感触はそう簡単に消えてくれない。