歪んだ月が愛しくて1
「……もういい」
変態と話してても埒が明かない。
それよりも会長に口止めするのが先だ。
「それと、さっきのこと…、皆には黙ってて欲しい」
「……恐極か?」
本当は月のことも黙っていて欲しい。
でも頼稀と未空が合流したとなると既に月のことを知られている可能性が高い。
この際月のことは仕方ないとして問題なのは…。
「それとも、ぐちゃぐちゃだった方か?」
「………」
会長は気付いていた。
あれをやったのが俺だと言うことにも。
でも会長は何も言わない。何も聞かない。
あんなお世辞にも綺麗とは言えない骸の山を見ても、何も…。
「皆には、言わないで」
「………」
誰にでも触れられたくない部分はある。
今回のそれは俺の消し去りたい過去の一部だった。
「お願い」
触れられたら。過去を暴かれたら。
俺はもうここにはいられない。
少し前の俺ならそれでも良かった。
バレたらバレたでここを去ればいいだけの話だから。
でも今は…―――。
「……分かった」
「っ、ほん、と…?」
「お前が言いたくねぇことは聞かねぇよ」
ダメだと思う自分がいる。
聞いて。拒絶して。受け止めて。
とんでもない我儘だと言う自覚はある。
「お前が誰であろうと、喧嘩が強かろうと関係ない」
どんどん欲張りになっていく。
「それがお前なんだろう」
「、」
もう言われることはない思っていた。
そんな当たり前で簡単なこと。
もう誰も口にしてくれないと思ったのに。
『シロが誰であろとシロはシロだろう!』
「……どうか、してるよ」
アイツも、アンタも、俺も…。
「かもな」
どこで境界線の引き方を間違えたんだろう。
初めから近付かなければ良かったとかは後の祭りで、もう自分でも何をどうしたらいいのか分からない。
(手遅れなのかな…)
明確な答えを出せないまま心地良い温もりに目を伏せた。
既に手遅れだとしてもいつまでもこのままではいられない。
だって音がするから。
すぐそこまで忍び寄る足音がカウントダウンを告げる。
それでも仮初めの平穏を心地良い太陽の下で過ごしたい。
いつかやって来る終焉の日まで。