歪んだ月が愛しくて1
「……立夏くん、本当に怪我はありませんか?」
保健室を出た後、九澄先輩は俺の頬に触れて怪我の有無を確認する。
「ないですよ、どこも」
九澄先輩の問いに答えながらも無意識に保健室のドアを見つめていた。
「尊のことは心配しなくても大丈夫ですよ。先生も骨にヒビが入った程度と言ってましたからね」
「………」
「ふふっ」
笑われた。
……え、急に?
「立夏くんは意外と分かり易いですね」
「分かり易い、ですか…?」
「何か聞きたいことがあるんですよね。どうぞ?遠慮なく聞いて下さい」
「っ、どうして…」
「言ったでしょう、分かり易いって」
……俺、分かり易いのか?
ちょっとショックだ。
「立夏くんは何が知りたいのですか?」
「……何が知りたいかまでは分からないんですね」
「僕は超能力者じゃありませんから」
「だとしたら怖いです」
でも強ち否定し切れない。
九澄先輩ってそう言うところあるから。
今だって俺を見下ろす紫暗の瞳にはムズムズするような優しさが含まれていた。
それはまるで俺の心情を察して気遣っているとしか思えなかった。
「……会長は、本当に大丈夫なんですか?」
「ヒビ程度ですからね。安静にしていれば問題ないでしょう」
「でも治療って…」
「湿布を貼ってギブスで固定するだけですよ。腕を固定しないと治りが遅くなりますから」
会長の怪我は本当に痛々しくて、何より俺のせいで出来た怪我なのに何も出来ないことがもどかしくて苦しかった。
「でも…」
自分勝手なのは分かってる。
「苦しい」なんて思うこと自体見当違いだと言うことも。
「やっぱり心配で…」
あの色が脳裏にちらつく。
頭を抱えて固く目を瞑る。
まるで悪夢から…、何れ訪れる現実から目を背けるかのように。