歪んだ月が愛しくて1



「尊が羨ましいですね」



………は?



「羨ましい…?」



何が?



「立夏くんにそんなにも心配してもらえるなんて」

「そ、なの…」



決まってる。

心配しないなんて、そんなこと出来るわけがない。



「だってあの怪我は、俺の…」

「立夏くんのせいじゃありませんよ」

「っ、何で断言出来るんですか!?」

「僕はその場にいなかったので詳しいことは分かりませんが、尊は立夏くんを庇って怪我をしたんですよね?尊が自分の意思で」

「それはっ、俺が動けなかったから…、だからそれしか方法がなくて…」

「そう。それが最善の策だと尊も思ったんでしょう。だから尊は立夏くんを庇って怪我をした。それだけのことです」

「それだけなんかじゃ、」

「人にはそれぞれの優先順位があります」

「優先順位?」

「つまり大切なものの順番と言うことです」

「大切な、もの…」



―――シロ



―――シロ、さん



俺の大切なものは…、



「今回のことで言えば尊にとっての優先順位は自分のことよりも立夏くんの方が上だったと言うだけですよ」

「そんなわけ…「ない?」



あるわけがない。

いくら会長がお人好しだからって自分以上に大切な存在なんて…、



『…ごめん、シロ……』



……有り得ない。



「本当に?」

「………」



本当、あるわけない、のに…、



「でもそれを決めるのは尊自身です」

「、」



九澄先輩の迷いのない声が俺の思考を両断する。



「僕にも僕の大切なものがあります。それは他人が決めるものではないし大切なものの基準なんて自分でも分かりません。要は理屈じゃないってことです」



大切なものの基準がないことも、俺が決められることじゃないことも分かってる。



でも、それでも…っ。



「理屈じゃないなら何なんですか!?何で自分のことよりも他人を優先出来るんですか!?」



納得出来ない。

認めことなんて出来ない。



「立夏くんにとって理解出来ないことであっても、それを決めるのもそれを実行に移すのも尊が決めることであって尊自身の責任です」

「そんなのっ、分かんねぇよ…」



九澄先輩の優しさが嬉しかった。でもその反面痛かった。
だって俺が望んでいるのはそんな言葉じゃない。
いつものように「お前のせいだ」と責められて罵られた方がまだマシだ。
こんな風に肯定されるなんて…、そんな優しさ俺には必要ないものなのに…。



「立夏くんにもあるでしょう、大切なものが」

「………」



俺の、大切なもの…。

家族と、そしてもう二度と会うことの許されないかけがえのない彼等の存在。

それが俺の全てだった。



「……ありましたよ」



あの時までは。

確かにこの手にあったはずなのに…、


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