歪んだ月が愛しくて1
―――シロ。
―――シロ、さん。
そう俺を呼ぶ声が好きだった。
「何よりも、大切な…」
大切だった。
何よりも、誰よりも。
少なくともあの時の俺にとっては兄ちゃんやカナよりもなくてはならない存在だった。
でも何よりも大切だった彼等を傷付けて不幸にしたのは間違いなく俺だ。
「立夏、くん…」
忘れるな。
忘れるな。
絶対に忘れちゃいけないんだ。
俺はし…「りっ、かあぁぁあああ〜!!」
その大きな声は俺の思考を一瞬で遮った。
次の瞬間、ガツンと強い衝撃が全身を襲った。
「こんなところにいたのかよ!心配したんだぞ!」
でも痛いだけじゃない。
その声に、温もりに、フッと身体が軽くなった感じがした。
「の、ぞみ…」
そしてその顔に酷く安堵した自分がいた。
「……心配したのはこっちの台詞だよ」
「あー…そうみたいだね、ごめん」
希はバツが悪そうにポリポリと頭を掻く。
希が謝ることじゃないのに謝らせてしまった。
希はただ巻き込まれただけなのに…。
今度は俺の方が居た堪れない気持ちになる。
「怪我、してない?」
「どっこも。ピンピンしてるぜ」
そう言って希はニカッと歯を見せて笑った。
「良かった…」
希が無事で本当に良かった。
心からそう思えるのは希がいつもと変わらない笑顔で俺の名前を呼んでくれるからだ。
「ありがとな。俺のこと心配してくれて」
「……当然」
するさ、心配くらい。
だって俺にとって希は…。
(……ダメだ)
まだ言えない。
自覚しちゃいけない。
本当にそれを声に出して言ってもいいものか、俺には分からなかった。
「へへっ」
「……何笑ってんの?キモ」
ギュッと俺にしがみ付く華奢な身体。
希は嬉々とした声を上げて俺に罵倒されてもその手を離さなかった。
「キモくて結構コケコッコー」
「ふる」
どうかしてるよ。
俺もその手を離したくないなんて…。