歪んだ月が愛しくて1
バタバタと複数の足音が近付いて来る。
「あ、のんちゃんいた…って、何でリカに抱き付いてんのっ!?ずるい!俺のリカから離れてよ!」
「いつからお前のになったんだよ」
「近い将来俺のになるのっ!絶対!」
「願望か」
「妄想じゃね?」
「現実だよ!」
そこに現れたのは未空、陽嗣先輩、頼稀の3人だった。
「まだまだ現実には程遠いと思いますけどね」
……あ、九澄先輩のこと忘れてた。
「立夏くん、すっかり2人の世界に入ってましたけど僕のこと忘れてましたね?」
「ゔっ…」
ごめんなさい。
「急に走んなバカ。心配すんだろうが」
「態とだよ、わざと」
「悪趣味か」
頼稀は希の頭に拳骨を落とす。
でも傷付けないように加減してるのが見て取れた。
「もう頼ちゃんは心配性だな」
「俺だけじゃねぇよバカ」
頼稀の言う通り心配するなって方が無理な話だ。
それなのに希は「ごめんごめん」と言いながらいつものように笑っていた。
俺達が気に病まないように態と明るく振舞っていることくらいお見通しだ。
「つーか、何でこんなところにりっちゃんとお前がいるわけ?ここって保健室じゃん」
陽嗣先輩の問いに九澄先輩が答える。
「勿論、治療のためですよ」
「治療って…」
「もしかしてリカ怪我したの!?大丈夫!?」
「俺は大丈夫だよ。怪我をしたのは…」
すると突然グラッと視界が揺れた。
「―――いい加減離れろ」
脳に直接響く低い声。
彼は音も立てずに背後に忍び寄る。
忍者か?
手当てを終えた会長は俺の二の腕を掴んで希から引き剥がすと自身の腕の中に閉じ込めた。
強引で何を考えているか分からない会長の言動に文句の一つでも言ってやろうと思ったが、たった今保健室から出て来たばかりの怪我人だと言うことを思い出して喉まで出掛けたそれを会長の腕の中で飲み込んだ。
「終わった、の…?」
「見ての通りだ」
会長の視線が下方に落ちる。
その視線の先にある左腕は手首から肘に掛けてがっちりとギプスで固定され悪化するのを防ぐためにアームスリングで腕を支えていた。
……やっぱり骨折か。
分かっていたけど痛々しい。
「お前も貼っとけ」
「え、あ…」
怪我人であるはずの会長から湿布を手渡された。
何でこんな時まで人の心配してるんだよ。本当お人好しなんだから。
「みーこ、その怪我っ!?」
「騒ぐな。説明は後だ」
「おいおい、後ってお前…」
「そこの2人、風魔と佐々山だな。お前等も一緒に来い。九澄」
「後のことは任せて下さい。終わり次第そちらに向かいます」
そう言って会長は怪我をしていない右手で俺の手首を掴んで歩き出した。
説明を後回しにされた未空と陽嗣先輩も、訳も分からず命令された頼稀と希も会長の後に続いて渋々足を進めた。