歪んだ月が愛しくて1
拘束されていない俺の足がズボンの前にしゃがみ込む男の顔面に見事クリーンヒットした。
男の身体は壁に激突すると身体を丸めて床に沈んだ。
(やっべ…)
正当防衛とは言え無意識に手を上げたことで俺の頭は次第に冷静さを取り戻す。
「………あ、足か」
すると俺の口を抑えていた男が俺の顎を掴んで自身の顔を近付けた。
「なーにやってくれちゃってるのかなー?」
「……触んな」
「おお、こっわ」
表情と言動が一致していない男はニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて俺を嘲笑う。
「気が強ぇ奴は嫌いじゃねぇよ」
「離せ」
「躾がいがあ…」
ペッと、唾を吐く。
勿論男の顔面目掛けてしてやった。
「離せって言ってんだよ、このツンボ野郎」
「……へぇ?」
男の手が俺の顎から離れる。
すると傍にいた他の男達が一斉に掴み掛かって来た。
「テ、テメー!ふざけんなよ!我孫子さんに何てことを…っ」
「ナメたことしやがって!」
「ガキが調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
お決まりの台詞に小さく溜息を吐く。
ボキャ貧共め。
「おたく等全員中耳炎?耳聞こえてる?離せって言ったのに離さないそっちが悪いんだろうが」
「テメッ、痛い目見ねぇと分かんねぇようだな!」
俺の胸倉を掴む男は反対の拳を堅く握り締め俺に見せつけるように振り上げる。
「やってみれば?」
頭に血が上っている男達とは裏腹に俺の頭は冴えていた。
態と挑発してやれば次の行動なんて一つしかない。
「上等だ!歯食い縛りやがれ!」
バカだ。
案の定、男達は安い挑発に乗って来た。
このまま頭の血管ぶち切れてしまえばいいのに。
でも頭の血管なんてそう簡単に切れるものではないから一発だけもらって正当防衛で沈めることにした。
そう思って目を瞑った瞬間、どこからか変な叫び声が聞こえた。
「アー●パーンチ!」
そうそうアーンパー………ん?
ん?
同時に何かがぶつかる音がする。
その声と衝撃音に目を開けると、そこには食堂にいるはずの未空と頼稀の姿があった。
「何で…」
2人がここにいるの?
「あ、リカ大丈夫?」
「飯来たぞ」
「いやいや、飯じゃなくて」
何でここにいるのか聞いてるんだけど。
「もう心配したんだよ!リカ全然帰って来ないから!」
「し、心配…?」
何の?
「飯冷めんぞ」
「あ、飯の心配ね」
「ち・が・う!飯の心配じゃなくてリカの心配!あれほど知らない人には付いて行っちゃダメって言ったのに!」
言われてねぇよ。
てか付いて行ったわけでもねぇから。
「……これ、お前がやったの?」
「これ?」
頼稀が指差したのは床で倒れている男。
「………あ」
しまった。