歪んだ月が愛しくて1
「よ、りき…?」
「………」
頼稀の口から聞きたかった。
でも頼稀は陽嗣先輩を睨んだまま何も言わない。
こう言う時、俺はどんなリアクションを取ればいいのだろうか。何が正解なのか教えてくれ。
「ありゃ、りっちゃん知らなかったのけ?」
「ここでは有名な話ですよ」
「確か正式名はぶ、ぶー…」
「“Bloody Butterfly”だ」
……何てこった。まさか周知の事実だったとは。
だから月も“B2”の報復を恐れて頼稀を遠ざけたのか。
「……前に話したはずだ」
「そ、そう言えば聞いたかも…」
ここは皆に合わせよう。
俺だけ知らないと逆に不自然だ。
「ほ、他にはいないんですか?頼稀の他に暴走族に入ってる人って」
「んー…聞いたことないけど、ヨージ知ってる?」
「しーらね」
「そう、ですか…」
つまりアゲハが“B2”の総長ってことは知られてないわけか。その方が無難だな。
「でもどうせいるんだろう?お仲間」
「さあ?何のことだかさっぱり」
「まあ、大体の見当は付いてるけどな」
「知らねぇって言ってんだろう…」
「おお、こっわ」
……知られてないといいが。
後からバレたら余計面倒なことになりそうだし。
「話を戻しますが、風魔くんが倒したと言う侵入者は今どこに?」
「は?」
「彼等をどこに隠したのかと聞いているんです」
「………」
隠した?
……まさか。
「いないんですか?」
「いないのか?」
思わず会長とハモってしまった。
「ええ、それらしき人物はどこにも。尊、貴方が立夏くんと合流した時確かに彼等は近くにいたんですよね?」
「……ああ」
いなくなった?
そんなはずは…、あの怪我の状態でそう簡単に動けるはずがない。
少なくとも自力で移動したとは考え難い。
となれば…、
「勝手に起きて出て行ったんじゃないですか?」
……白々しい。
「君の仕業じゃないと?」
「違いますよ。俺は立夏と別れてすぐに希を捜しに行ったんです。希と合流した後はずっと未空達と一緒でしたしそんな暇ありませんでしたよ」
「……随分と冷静なんですね。君の友人に危害を加えようとした人間が逃げたんですよ?」
「俺なりの制裁は与えました。それに希と立夏が無事だっただけで十分ですよ」
「九ちゃん、頼稀の言う通りだよ。俺達ずっと一緒だったから頼稀にそんなこと出来ないと思うよ」
「まあ、どっかの誰かさんに頼んだなら話は別だけどな〜」
「誰かって誰ですか?」
「お仲間とか?」
「さっきの話聞いてました?耳鼻科行った方がいいですよ」
この場合、侵入者を移動させたのが覇王じゃないとしたら犯人は頼稀しか考えられない。
大方アゲハに頼んでやらせたんだろう。
「で、恐極のことはどうするつもりですか?」
「彼の処分は本人に追って下します。君が気にすることではありませんよ」
「一応被害者なんでね」
「ああ、そうでしたね」
「(この狸め…)」
頼稀の苛立ちが手に取るように分かる。いや、あえて出してるのか。
相変わらず頼稀と覇王の相性は良くないらしい。
でも気になったのはそんなことじゃない。
「あの、処分ってどんな…「立夏くん」
途端、九澄先輩が俺の言葉を遮った。
「ここから先は僕達に任せて下さい」
力強い芯のある言葉。
九澄先輩は俺の目の真っ直ぐに見つめて俺を安心させるかのように優しく微笑んだ。
「………はい」
でも不安が過ぎる。
こんな気持ち間違っているのに。