歪んだ月が愛しくて1
黒い影
◇◇◇◇◇
「へー…」
カタカタとキーボードを打ち付ける音が響く薄暗い一室で液晶の光が少年の顔を青白く照らす。
パソコンの画面に映し出された暗号のような記号の羅列に少年は眉を顰めたかと思えば次第に口元を歪めて顎に手を添えた。
Prrr…
少年のスマートフォンが着信を知らせる。
少年はディスプレイに表示された番号を見て溜息を吐く。
「……何?君達は用済みだと言ったはずだけど」
『ま、待って下さい!あの時はちょっと油断しただけなんです!俺達にもう一度だけチャンスを下さい!』
「僕があそこまでお膳立てしてあげたのに獲物1匹仕留められない奴がよく言うね。僕が学園の防犯システムを誤作動と認定してカメラの映像を一部切断しなかったら今頃君達は豚箱行きだよ。それでも君達は“鬼”なの?」
『そ、れは…』
「しかも何あれ?いつから恐極の娼夫になったわけ?」
『、』
「勝手なことしてもらっちゃ困るんだよ。君達だけならまだしもこっちの素性までバレたら元も子もないからね」
まあ、君達の素性は何れバレるだろうけど。
『そ、それでも、俺達はアイツ等の仇を取らなきゃいけないんッスよ!』
「仇?」
『仲間がヤられたんですよ!それもあんな見るも無残な姿にされて!』
「…それが?」
『そ、れがって…』
「弱さってのは悪なんだよ」
『は、』
「強者は正義、弱者は悪。君達が本当に“鬼”であるならそれくらいの分かってると思ったけど。それに何度やっても結果は同じでしょう、君達の実力なら」
『…どう言う、意味ですか?』
「見た目に惑わされて相手の実力を見誤るなんて実に愚かな行為だ」
『だから、それは油断してっ』
「その油断とやらがなくても君達じゃ勝てないって言ってんだよ」
『なっ!?』
「大体仲間の敵討ちとか何とか言ってるけど、じゃあ何で君はそんなに元気なわけ?ああ、そりゃそうか、仲間見捨てて自分だけ尻尾巻いて逃げて来たんだもんね」
『っ、』
「百鬼に弱者は必要ない。二度と“鬼”を名乗るな」
『あ、シキさん!待ってくだ、』
シキと呼ばれた少年は通話口から漏れる煩わしい声に通話を切った。
「何度やっても無駄。君達に夜叉は仕留められないよ」