歪んだ月が愛しくて1



「もう少し立夏くんに優しくしてあげてもいいんじゃないですか?」

「それが怪我人に言う台詞か?」

「それはそうと」

「おい」



九澄先輩は会長との話を中断して俺を見つめる。



「立夏くん、しつこいようですが本当に怪我は…」

「頼稀が一緒にいてくれたんで俺は大丈夫ですよ。でも会長が…」



徐に会長の左腕に視線を移す。
その左腕は痛々しくギプスとアームスリングで固定されていた。



「尊は大丈夫ですよ。あの後念のために大学病院にも行かせましたから」

「腕もヒビが入った程度だったしな」

「利き腕じゃなくて良かったね」

「誰があんなへなちょこにやられるかよ」

「また強がって…」

「ハッ、誰が」



会長は医者から全治1ヶ月と診断された。
左前腕部にヒビと打撲を負ったが日常生活に支障はないらしくギプスとアームスリングだけで済んだようだ。



でもそれは痛みがないのとイコールじゃない。



「痛いなら痛いって言えばいいのに…」

「痛くねぇよ」



頑固な会長は一向に口を割らない。

……本当に素直じゃない。



不意に会長の左腕に触れる。
すると会長のポーカーフェイスが一瞬だけ崩れた。



「……やっぱり、痛いんじゃん」

「だから痛くねぇって言ってんだろう」



そう言って会長はしつこいと言わんばかりに舌打ちして本日何本目かの煙草に火を点けた。



「……すいません、でした」

「あ?」

「俺のせいで、会長を巻き込んだから…」



あの時、俺が油断していなければ会長は怪我をしなくて済んだかもしれない。
そう思うと悔しくて、申し訳なくて。
あの色に怯えて足が竦んだ自分をぶん殴ってやりたい。


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