歪んだ月が愛しくて1
「何にせよ陽嗣の発言は否めませんね」
「ああ。恐極は恐極組の次期若頭だ。族と繋がりがあっても不思議じゃねぇからな」
「次期?今は違うの?」
「そのはずだ。恐極は組長の実子だから人望最悪で能力がないクズであっても次期若頭のポストを用意されてんだよ。あそこは代々血脈を重んじるところだからな」
「ふーん…。随分詳しいんですね」
「常識だ」
「絶対嘘」
「嘘じゃねぇよ」
いやいや、絶対に常識じゃないでしょう。
少なくとも表世界で絶対的権力を誇る神代財閥と裏世界に住む暴力団とでは全くの畑違いだ。
ましてや俺みたいな一般人にそんな予備知識は備わってないんだよ普通は。
「でもさ、今回みたいな時って普通は組の人間を使うんじゃないの?」
「恐極組は白桜会の二次団体だがいくら関東でそれなりに名前が知れ渡っていても暴力団がガキの喧嘩に首突っ込んだりはしねぇよ。それこそ組の名折れだ」
「だから族を使ったってこと?」
「その可能性もあるってことだ」
……やけに詳しいな。
調べたのか?でも何のために?
そんな自問自答を繰り返したところで辿り着く結論はいつも一緒。
結局は会長が何を考えて何をしようとしているのか俺には全く分からなかった。……いや、違うな。
全くではない。ただ月がどんな意図があって俺を襲撃したのか、誰を使い捨ての駒にしたのか、そう言う部分に関してはどうでもいいと思っているからあえて余計な考えを巡らさないように心をセーブしていた。
この件で俺が許せないのは無関係な会長を巻き込んでしまったこと。
その怒りの矛先は月と俺自身に向けられている。
そして何より引っ掛かるのは月を影から操っていた黒幕の正体だ。
その正体を明らかにしないことにはいくら“B2”が下っ端共を処理したところで何も解決していないのと同じだった。
「恐極が組の人間を使ってないのはほぼ間違いないでしょうね。見て下さい。恐極のパソコンをハッキングしたらとあるサイトにこのような書き込みがありました」
そう言って九澄先輩はパソコンの画面を指で差す。
そこには「腕っぷしに自信がある人・お金が欲しい人・欲求不満な人募集中。募集人数10人以上。成功報酬は1人5万円。男色に興味がある人は是非ご連絡下さい。詳細はこちらまで」との書き込みがあった。
「うげっ、何だこれ」
「サイッテー」
「外道め」
「調べたところこれを投稿したのは恐極本人でした。このサイトを使って自分の駒を増やしていたのでしょうね。全く頭の悪い人間の考えることは理解に苦しみます」
九澄先輩は肩を回しながら呆れたように溜息を吐く。
俺のせいで無駄な労力を使わせてしまって申し訳ないと思う反面、九澄先輩の情報収集能力に少しだけ危機感を覚えた。
頼稀以上とまでは言わないがそれ同等の能力を持っているとしたら中々厄介だ。
「てかそれって恐極本人に聞けばいいんじゃないの?」
「えっ!?」
未空の言葉に大袈裟にリアクションする。
え、聞いちゃうの?マジで?
いつかはそこに触れられるとは思っていたけど今そこに気付いちゃったか。
出来ることなら覇王には月と接触させたくなかった。
理由は単純でただ口止めするのを忘れたから。
「無理だな」
「え、無理?」
何で…、と疑問が浮上すると同時に九澄先輩が予想外の言葉を口にした。