歪んだ月が愛しくて1
「……何で、リカが悲しそうな顔するの?」
顔を伏せたまま言葉を閉ざした俺を未空が下から覗き込む。
「未空…」
そんな顔しないで。
思い出してしまうから。
『俺は一度だってお前を兄弟なんて思ったことはねぇよ…』
『リツは僕の…、僕等の大切な兄弟です』
俺が犯した罪の重さを。
『…ごめん、シロ……』
俺が不幸にしてしまったアイツを…。
「……新しい学校への下準備はしました。後は彼次第です」
「………」
俯いたまま黙り込む俺に九澄先輩は困ったように微笑んだ。
その柔らかさがこの場の空気には不釣合いで息苦しさを助長させた。
すると徐に澄先輩はパソコンを自分の鞄に仕舞い俺達に背を向けてドアの方へと歩き始めた。
「九ちゃん、どっか行くの?」
「私用で出ます。今日は戻りませんので」
「お疲れ様でした」と言い残してパタンッと扉が閉まる音だけがやけに耳に残った。
室内には微妙な空気が流れる。……息苦しいな。
「りっちゃん」
ぷかぷかと宙に浮かぶ紫煙を纏いながら俺を見て目を細める、陽嗣先輩。
「そんな顔、アイツに向けてやるなよ」
「………」
どんな顔…、なんて聞かなくても何となく分かる。
戸惑いと、批難と、息苦しさと。
そんな負の感情がごちゃ混ぜになって嫌な顔を見せてしまった。
「嫌な役、全部背負っただけじゃねぇの」
「……分かって、ます」
「特殊なんだよ聖学は。いくらアイツだって無闇に切り捨てたりしねぇよ」
「………」
いくら俺が罪悪感を抱いたところでどの道月の処分は免れない。
覇王の忠告を無視して俺を襲ったばかりか会長に怪我を負わせた時点で覇王は月に何らかの罰を与えなければ他の生徒への示しがつかない。
それを怠れば覇王の権威は一気に崩れ覇王の恐怖政治は一瞬で終わりを迎えるだろう。
九澄先輩のような人がそれをみすみす許すはずがない。
それに一見血も涙もないような処分に見えるが新しい学校を探したり事件のことを公にしていないことから考えても九澄先輩が無闇に切り捨てたわけじゃないのは分かっていた。
それでも気になるのは月の処分を決めた九澄先輩のことだった。
もし九澄先輩が月の処分を決めたとしたらその事実を背負わなきゃいけないのも九澄先輩ってことになる。
それは高校生にはあまりにも重過ぎる重圧じゃないだろうか。
「……ちょっと、出て来ます」
そう言って誰の返事も聞かずに生徒会室を飛び出した。
廊下に出たらもうそこには誰もいなくて、兎に角急いで中央棟を出て九澄先輩を捜した。
九澄先輩の行きそうなところなんて全然分からない。
会長と未空の行きそうな場所なら何となく分かるのに…、クソ。