歪んだ月が愛しくて1



九澄先輩を見つけられないまま時間だけが過ぎて行く。



そんな時だった。



「……あ」

「あ」



ふと目が合った。

と言うより向かいのベンチに座っていた彼が顔を上げた瞬間、互いの存在に初めて気付いた。



「アンタ…」

「っ、」



俺がその名を呼ぼうとした時、彼は突然走り出した。



「あ、ちょっ…」



自然と足が動いた。

気付けば彼の後を追って走っていた。



「おいっ」



……何でだろう。

何でかよく分かんないけど。



「待てよ!何で逃げんだよ!」



俺の呼び掛けに彼は一切反応することなくただただ走り続ける。

つまり俺は彼に避けられていると言うことになる。あからさま過ぎる。



「意味、分かんねっ」



避けられている理由は分からない。

でもだからこそ捕まえないといけないって思った。



「は、は…っ」



荒い息遣い。

心なしスピードも落ちている気がする。



彼の限界が近い証拠だ。



「ク、ソ!」



もう少し



もう少し



あと、もう少しで…、










―――届く。





「…っ、白樺ぁ!!」

「、」


< 366 / 552 >

この作品をシェア

pagetop