歪んだ月が愛しくて1



「はぁ…、っ」



逃がさんと言わんばかりに白樺の手首を掴んでその華奢な身体ごとコンクリートの壁に押さえ付けた。
白樺は背中が壁にぶつかった衝撃で眉間に皺を寄せた。



「……何で、逃げんだよ」



でもそんなのお構い無しに問い詰めると心なし普段より低い声が出てしまった。
これではまるで俺が喧嘩を売っているようにしか見えない。



「………」

「………」



散々逃げた挙句、無視かよ。



「……痛い」

「あ、ごめん」



そう言われて反射的に白樺の手首から手を離す。



「………」

「………」



……き、気まずい。

捕まえたはいいがこの後どうしよう。



そもそも九澄先輩を捜していたはずなのにどうして白樺に構ってるのか、正直自分でもよく分からなかった。



「……何で、追って来たわけ?」



ただ捕まえなきゃいけないと思った。

白樺を逃すなと、本能に語り掛けられるまま行動していた。



「そっちが逃げるから…」

「……意味分かんない」



自分でも自分がよく分からない。

でもそれは俺の台詞でもある。



「……だったら何で逃げたんだよ?」

「君の顔なんか見たくないからだよ」



キリッと、白樺は至近距離から俺を睨み付ける。



「俺、アンタに何かした?」



どっちかと言うとされた側なんだが。



「……さっき聞いた、月さんの退学のこと」

「それで?」

「表向きは家庭の事情ってことになっているけど、本当は君のせいなんでしょう?」



俺のせい、か…。

どこまで知ってんだか。



「どうせまた覇王様に泣き付いたんでしょう、僕の時みたいに」

「………」

「違う?」

「……違う、って言えたら良かったんだけど」



結果的に白樺の言う通りだった。
俺を庇ったせいで会長が怪我をしたのも、覇王であるが故に九澄先輩が重過ぎる決断をしなくちゃいけないのも。



「全部、俺のせいだ」



ドンッと、白樺は俺の胸を両手で叩く。



「何でっ、月さんが何したって言うんだよ!?」

「………」



目の前にいる白樺からヒシヒシと伝わる感情。



「何で月さんが学園を辞めさせられなきゃいけないんだよ!それも君なんかのせいで!」



白樺は怒っていた。

他人のことなのにまるで自分のことのように。



「黙ってないで何とか言いなよ!」

「恨みたかったら恨めばいい」

「っ、」

「でも俺は月を許さない」



俺だけならまだしも月は無関係の人達を巻き込んだ。
頼稀を誘き寄せるために希を使ったり、会長に怪我を負わせたり、未空にもあんな顔させたり…。



……いや、許せないのは月だけじゃない。



一番許せないのは守られてばかりいる情けない俺自身だった。


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