歪んだ月が愛しくて1
「だったら…」
不意に白樺の手が伸びる。
「だったら何で僕は罰を受けないんだよ!?」
白樺は両手で俺の胸倉を掴むと今度は反対に俺の身体を壁に打ち付けた。
「僕だけ、何で…っ」
「………」
「同情なんていらないんだよ!」
『触らないで!君に同情されるくらいなら僕は、僕は…っ』
「そんなことされても、迷惑なんだよ…っ」
「しら…、」
そう言い掛けた直後、けたたましい警報音が鳴り響いた。
「警戒!警戒!学園内に侵入者を確認!第二次警戒態勢の下、生徒は直ちに学生棟に避難して下さい!」と、突如鳴り響く警報音に俺達は互いにビクッと肩が跳ねた。
「し、侵入者!?何で…っ、早く避難しなくちゃ!」
「避難?」
「今の放送聞いてなかったの!?兎に角学生棟に避難するよ!」
「あ、ちょっ…」
白樺は俺の胸倉から両手を離して何故か俺の手首を掴んで走り出した。
その慌てようから事の重大性を理解し始めた時、近くで悲鳴が聞こえて来た。
「悲鳴っ!?」
「まさか、もう近くに侵入者が…っ」
嫌な汗が額に浮かぶ。
マジかよ。ここの警備どんだけ手薄なんだよ。
「あそこ!」
白樺が指差した方に目を向ける。
しかし人垣が邪魔でその先の様子がまるで見えなかった。
「アイツ等っ、何で逃げねぇんだよ!?」
白樺の手を振り払ってその人垣に向かって走る。
俺の存在に気付いた生徒達がゆっくりと花道のように道を開ける。
その間を通り抜けた先にいたのは小柄な男子生徒の首にナイフを当ててヘラヘラと笑うスキンヘッド男の姿だった。
その他に4人、聖学とは別の制服を着た男達がスキンヘッド男の後ろに控えている。
人質にされた男子生徒は涙を浮かべながら顔を真っ青にして遠目でも分かるほどその身体は震えていた。
(どうにかしねぇと…っ)
ただ気になるのは人質にされた生徒を心配する声がないと言うこと。
結局我が身が一番可愛いってことかよ。