歪んだ月が愛しくて1



「西川くんっ!?」



白樺が叫ぶ。

きっと人質にされた彼の名前だろう。



「お前何で逃げねぇんだよ!?」

「君だって逃げてないだろう!」

「俺はいいんだよ!いいから離れてろ!」



白樺の身体を後ろに隠して男達から距離を取る。



「立夏!」



その声に振り返ると頼稀とアゲハが早足でこちらに駆け寄って来ていた。



「駒鳥、何で君がここに…?」



それはこっちの台詞だ。
何でこのタイミングで現れ……いや、寧ろ丁度いいか。



「しかも何で白樺と…」

「可笑しな組み合わせだね」



それは俺が一番よく分かってんだよ。



「そっちこそ何で2人揃ってるわけ?」

「原因はあれさ」



そう言ってアゲハはスキンヘッド男を指差した。



「恐極月を出せ!ここにいるのは分かってんだ!早くしねぇとコイツの首が吹っ飛ぶぞ!」



……Why?



「月?何でまた…」

「見覚えねぇか?」

「え?」



見覚え?



………あっ。



「月の手下だったハゲ」



そう言えばあんな頭の奴もいたな。すっかり忘れてた。



「この前の残党だろうな。隙を見て逃げ出したか」

「逃げた?」

「ああ、そのことなんだが前に皇先輩が言ってただろう、侵入者がいなくなったって」

「言ってたけど…、あれは“B2”が回収したんだろう?」

「……いや、うちじゃねぇんだ」

「は?」



“B2”じゃない?

じゃあ一体誰が…、



「その話は後にしよう」



ハッと、アゲハの声に思考が浮上する。



「白樺くんもいることだしね」

「あ、ああ…」



ふと目が合うと、白樺はぽかんとした顔で俺達を交互に見つめていた。
危ない、危ない。白樺がいることを忘れてた。アゲハが言うようにこの話は後回しだな。



「まあ、彼等が恐極月を恨むのは仕方ないことだよ。彼は敵を作り易いタイプだし結果的に新歓の事件は彼の杜撰な計画のせいで失敗に終わったようなものだからね」

「アゲハさん、それは違いますよ。例え恐極の計画が完璧だったとしても寝起きの悪い夜叉に敵う奴なんて誰もいませんから」

「……誰が低血圧だって?」

「ふむ、確かにそうだね」

「納得すんなよ」



でもアゲハの言うことには一理ある。
大方新歓の時のお礼参ってところか。



「とっとと恐極月を出せ!あの野郎にたっぷり礼をさせてもらわねぇとな!」

「隠し立てすんならテメー等も容赦しねぇぞ!」



笑っちゃうくらいのテンプレ発言。

本当期待を裏切らないね、三下は。



「単純」

「滑稽だね。彼はもうここにはいないと言うのに」



アゲハが言うように月はもう聖学にはいない。
でもスキンヘッド男達の言動からして奴等は月がここにいると思い込んでいる。
つまり何の下調べもなしに襲撃して来たことになる。おまけに侵入時の警報音と無駄に派手なパフォーマンスのことを考えると今回の騒動は…。



「単独犯?」



途端、頼稀はニヤリと口元を緩めた。



「……もしかして最初から気付いてた?」

「ああ。前回とは手口が大きく違うからな」



つまり侵入者はこの5人だけ。
5人くらいなら俺だけでも楽勝だが、厄介なのはスキンヘッド男の手の中にある凶器と人質だ。



「あの人達、何で月さんのこと…」



ふと白樺が不思議そうに呟いた。
新歓での一件を知らない白樺からしたら当然の反応か。



「おや、駒鳥から何も聞いてないのかい?」

「え、何をですか?」

「恐極月が学園を追われたわけ…「アゲハ」



咄嗟にアゲハの言葉を遮る。
俺の声にアゲハではなく白樺の肩がビクッと跳ねた。



「警備員は?」

「襲撃された」

「奴等に?」

「ああ、スタンガンで気絶させられていた。今頃は病院のベッドの中だ」

「あー…」



お大事に。


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