歪んだ月が愛しくて1



アゲハと頼稀が細心の注意を払いながら男達の後ろに回り込んだのを確認して、俺はどうやってスキンヘッド男に近付いてやろうかと思考を巡らす。
幸い男達はアゲハと頼稀の存在に気付いていない。
俺がスキンヘッド男に接触するまで動かないとは思うがだからと言ってそう悠長にしている時間もない。



(ここは正攻法で行くか…)



俺は眼鏡を外して白樺に預ける。
すると白樺は急に顔を赤くさせて狼狽え出した。



「それ、預かってて」

「え、えぇ…っ」



眼鏡なしでどこまで誤魔化せるか。
念のために前髪の分け目も変えておこう。



「き、君…、眼鏡なくて見えるの?」

「大丈夫。それ伊達だから」

「だ、て…?」



そんなお化けを見たみたいな顔しなくても良くない?

いくら見るに耐えない顔してるからってこんな時くらい見逃せよ。



「お前はそれ持ってここで大人しく待ってろ。下手に動くなよ」

「あ…」



白樺を残してゆっくりと前に進む。



「ふぅ…」



一度だけ大きく深呼吸をする。



別にビビってるわけじゃない。
ただ俺の選択に人質の命運が懸かっていると思うと少なからず緊張してしまう。
一瞬のミスが命取りになる。
だから間違えるな。俺ならやれる。



(………よしっ)



心の中で「せーのー…」と勢いを付けて大声を上げた。



「に、西川くんっ!」



いつもよりも少し高い声で人質の名前を叫びながらスキンヘッド男の前に飛び出した。



「ぼ、僕の友達を返して下さい!」

「あ?何だお前?」



飛び出したと言っても適度な距離を保って。

だって今の俺は気弱な根暗少年なんだから。



「彼は僕の友達なんです!お願いです、友達を返して下さい!」

「んなこと知るかよ。騒ぐとテメーのダチの命はねぇぞ」



首元にナイフを当てられてカタカタと震える、西川くん。



……大丈夫。

すぐに終わらせる。

だからもう少しだけ踏ん張ってくれ。



「あ、貴方達の目的は何ですか!?僕の友達が貴方達に何かしたんですか!?」

「俺達は恐極に用があんだよ。あの尻軽野郎のせいで俺達は…っ」

「きょ、恐極、さん…?誰ですかその人?その人が貴方達に何を…」

「うっせぇー!テメーには関係ねぇだろうが!これ以上余計な口出しするとテメーのダチからぶっ殺すぞ!」

「止めて!お願いします!何でもしますからっ!」



そう叫んだ直後、男達の目の色が変わった。



「……何でも?」

「何でもします!僕の友達を返してくれるなら何でも!」



奴等を逆上させないように下手に。
コイツなら抵抗しないと思わせるようにあくまで弱者を演じなければ。



「それに貴方達が捜してるのはその恐極さんって人なんですよね?僕、実はここの理事長と知り合いで…、もしかしたらその恐極さんって人が今どこにいるか分かるかもしれません!だからお願いします!僕が理事長にお願いして恐極さんのこと捜してもらいますから、だから西川くんのことは…っ」

「理事長と知り合い?へぇ…、お前にそんなツテがあったとはな。だったらテメーがコイツの変わりに人質になるって言うならコイツを開放してやってもいいぜ」



かかった。



「え、ぼ、僕が…」

「何だ、怖気付いたのか?」

「い、いえっ、なります!僕が人質になりますから!」



周囲がざわめき立つ。
作戦を知らない大多数の生徒達が「覇王様に連絡しなくては」とか何とか言ってるが冗談じゃない。
そんなことされたら折角の作戦が水の泡だ。
こんな時だけそんなお節介はいらねぇんだよ。


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