歪んだ月が愛しくて1
「合気道」
「あ、知ってた?」
「勿論。駒鳥は多才だね」
「前に教えてもらったからね、………ん?」
振り返ると白樺が地面に座り込んでいた。
「白樺?」
呼び掛けても反応がない。
白樺は地面に座り込んで俯いたままプルプルと拳を震わせていた。
怪我はしてないと思っていたが、まさか…。
そう思って白樺の肩に触れようとした時、白樺は突然動き出した。
「ほっんと、心臓に悪い!」
………は?
「ほんっと何なの君は!?突然ナイフ持った奴の前に出るなんて危ないでしょう!この死に急ぎバカ!」
「バカ!?」
この野郎、一度ならず二度までも!
「誰が死に急ぎバカだ!言っとくけどな、バカって言った方がバカなんだからな!バカ!」
「バカにバカなんて言われたくないよ!このバーカバーカ!」
「テメッ」
「落ち着けバカ」
「いだっ」
ペシっと、頼稀に後ろから叩かれた。
地味に痛い。
「今回は白樺の意見に同感だ。全く毎回毎回無茶しやがって」
「無茶なんてしてねぇよ。普通だろう普通」
「どこが普通なのさ!刺されたら怪我だけじゃ済まないんだよ!」
「でも誰かが行かなかったら西川くんやお前が刺されてたかもしれねぇんだぞ!だったら行くだろう普通!」
「それはそうだけど、だからって何で君が行く必要あるのさ!?大人に任せとけばいいだろう!?」
「知るか!気付いたら勝手に身体が動いてたんだよ!」
「な、だよそれ…っ。意味分からないよ!」
「俺だって分からねぇよ!」
「ストップ」
俺と白樺の間にアゲハの手が壁を作る。
「君等の言い分は最もだ。でも不毛な言い合いをする前に大事なことがあるんじゃないかな?」
「大事なこと、ですか…?」
「……あ」
ぐるっと周囲を見渡して彼の姿を捜した。
……いた。
「彼が理事長室に駆け込む前にこちらで保護させてもらったよ。これで良かったんだろう?」
「ああ」
西川くんは両膝を抱えるように地面に座り込みその場から動けずにいた。
そっと彼に近付いて小さく声を掛ける。
「……怪我はない?」
「、」
俺の問いに西川くんはビクッと肩を震わすだけで何も答えてくれなかった。
未だ西川くんの身体は小刻みに震えていた。
「見たところ病院に行くほどの大怪我はなさそうだけど一応保健室まで連れて行くから」
心配なのは身体の怪我より心の方。
ナイフを向けられただけでも相当ショックが大きいはずだ。
「怖い思いさせてごめん…」
「……、」
それから西川くんに背を向けてアゲハの元まで戻り肩を並べる。
「……アゲハ」
「分かってるさ。頼稀」
「はい」
頼稀は俺と入れ違うよう西川くんの元へ行き彼の身体を支えながら保健室まで連れて行った。
2人の姿が校舎に消えたのを確認して再びアゲハに声を掛ける。
「後のことは任せてもいい?」
「勿論。しかし本当に怪我はないんだろうね?」
「アゲハも心配性かよ。俺は大丈夫だって」
「それならいいがくれぐれも無茶しな…「良かねぇよ」
「、」
その声に振り返ろうとした瞬間、後ろから誰かに強く抱き締められた。
この腕、この匂いは…、
「会、ちょ…」
振り返ろうにも後ろからがっちりと拘束されてしまい会長の姿を確認することが出来なかった。
「えっ、え、会長?何でここに…?」
凄い視線を感じる。
それもそのはずで先程までの騒ぎのせいでまだ人だかりが残っていた。注目されないはずがない。ましてや相手が会長なら尚更だ。
そんなことを暢気に考えていると。
「こっのバカ野郎!!」
耳元で盛大に怒られた。