歪んだ月が愛しくて1



現実から目を背ける俺に会長は言った。



「嫌なのか?俺等に心配されるのが」

「………」



そう言われて自然と視線が下がる。

嫌か嫌でないかと問われれば当然…。



「………嫌」



それを嬉しいと思ってしまう自分が心底嫌だ。



「簡単に、そう言うこと言うなよ…」



―――可哀想に。まだ夢を見てるのか?



でも、やっぱりダメだ。



だってそんなの絶対に勘違いだから。

自分の都合の良いように解釈して背負うべき罪から逃れようとしているだけだ。



彼等の言葉を真に受けてはいけない。

彼等を受け入れてはならない。

例えそれが彼等の想いを無碍にすることだとしても俺は―――、



「だったら俺等に心配させねぇようにお前が努力しろ」



その言葉と同時に頭に重みを感じた。




「努力、って…」

「心配されたくねぇんだろう?だったら俺等が心配するようなことに自分から首突っ込むな。自衛本能くらい自分で磨け」

「………」

「分かったか?」



自然と上向きになる視線の先には会長の無駄に綺麗な顔が至近距離にあった。

頭から滑り降りていく手が俺の頬に触れる。



「ち、かい…っ」



気恥ずかしさから思わず顔を逸らすと会長は気に食わないと言わんばかりに目を細めた。



「とっとと返事しろ。これでも妥協してやってんだぞ」

「だ、妥協ってどこが…」

「YESかはいで答えろ。それ以外はまた口塞いで黙らせるぞ?」

「っ!?」



会長が言う“また”とは新歓の時のことだろう。
「したいから」なんてふざけた理由で俺のセカンドキスを奪った張本人はまるで焚き付けるかのように口角を上げて挑発する。



「真っ赤だな」

「……アンタの顔が近いからだよ」

「俺の顔が好みか?」

「誰がアンタの顔なんて好きになるか!」



ムキになったら負けだと分かっていても会長の言葉につい感情が高ぶりその手を振り払おうとしたが、逆に会長の右手が俺の頬を引っ張った。



「相変わらず威勢が良いな。その上話を逸らすのも上手いと来た」

「ふぁ?」

「返事」

「………」

「分かったか?」

「……………ふぁい」

「聞こえねぇな」

「わひゃりまひぃふぁー!」

「よし」



俺の返答に気を良くした会長は俺の頬を引っ張るのを止めたもののその手はまだ俺の頬から離れない。



「何がよしだ!いい加減に、しろっ!」

「ゔっ」



上がダメなら下だ。
会長の手を振り払うことを諦めて脛を蹴ってやった。
流石の会長もこれには痛みに悶えてソファーに深く座り込んだ。ザマアミロ。



「ヒュー、やるねぇ。王様に蹴り入れるとは流石だねりっちゃん」

「流石の尊も立夏くんには型無しですね」

「……うっせ」

「てかまたって何?そんな話聞いてないんだけど?」

「言ってねぇからな」

「言えよそう言うことは!そもそも抜け駆け禁止だから!」

「不可抗力だ」

「何が!?そう言えば許されると思ったら大間違いだからな!」

「チッ…」

「そこっ!舌打ち聞こえてっぞ!」

「てか我関せずな顔してっけどりっちゃんも当事者だからね?しれっとフェードアウトしようとしても無駄だから」

「え、これって俺のせいですか?」

「どう見てもそうでしょうが」

「もうリカってば鈍感なんだからん!そう言うところも可愛いけどね!」

「鈍感って言うか興味ねぇんじゃねぇの?王様に」

「あ?」

「確かに尊のことなんて眼中にないって感じですね立夏くんは」

「ぷぷっ、みーこちゃんかっわいそー♡」

「ドンマイ(笑)」

「……テメー等、言いたいことはそれだけか?」

「「ヒィィィ!!」」



あーあ、いつものお約束が始まったよ。

どうせ最後にはいつもこうなるんだから余計なこと言わなきゃいいのに。学習しないなこの人達。



いつもなら喧しいとしか思わない光景。
でもいつもと変わらないことに安堵している自分がいた。
何でか分からないけどそんな不思議な感覚に自然と頬が緩んでいた。


< 378 / 552 >

この作品をシェア

pagetop