歪んだ月が愛しくて1
九澄先輩と俺
先程までの重々しい空気が嘘のように覇王4人はいつもの喧しさを取り戻す。
これが彼等なりのコミュニケーション方法だとしたら俺はいつこれに慣れることやら。考えただけでも気が重い。
「それでは僕はこれで失礼します」
「え、またどっか行くの?折角戻って来たのに…」
「すいません。今日はどうしても外せない用がありまして」
「なのによく戻って来れたじゃん。出先だったんじゃねぇの?」
「丁度学園を出たところでしたが入れ違いに救急車が来たので何やら胸騒ぎがして戻って来たんですよ」
「九ちゃんの勘は正しかったね」
「ははっ…」
俺に同意を求められても反応に困るんだけど。
「九澄、早く行け」
そう言って会長は自分の腕時計を九澄先輩に見せ付けた。
「ああ、もうそんな時間でしたか」
「九澄」
「分かってます。侵入者の素性はこちらで洗いますので安心して下さい。ではまたあす…」
不意に九澄先輩と目が合った。
「立夏くん」
「は、はいっ」
咄嗟に声を掛けられて思わず変な声を出してしまった俺に九澄先輩はいつもの笑顔を浮かべて。
「車まで送って頂けませんか?」
「………え?」
俺が?
「尊」
「……好きにしろ」
それを合図に九澄先輩はくるっと反転して俺と向き合うと清々しいほどの笑顔で言い放った。
「では行きましょうか」
え、無視?
俺の意志は?