歪んだ月が愛しくて1



これから九澄先輩の澱に触れる。

そう意気込んだ瞬間。



「僕、こう見えてもハーフなんです」





……………。





「……はい?」

「あれ、気付いてませんでした?」



いや、結構見たまんま。
会長ほどじゃないが九澄先輩の容姿は日本人のものとは異なっている。
特に灰色の髪と紫暗の瞳は純日本人のものには到底見えなかった。



「母がドイツ人で父が日本人なんです。その父親が現在皇家の当主であり皇財閥の会長職に就いています」



つまり九澄先輩は会長子息。
やっぱり覇王とは住む世界が違い過ぎる。



「先程僕が聖学に入学したのは中等部2年の時と言いましたけど、何でそんな時期に…と思いませんでした?」

「それは…」

「隠すことはありませんよ。誰でも疑問に思うことです。現に誰かさんは初対面で無遠慮に踏み込んで来ましたから」

「誰かさん?」



………誰?



「まあ、それは今置いといて」



あ、誤魔化された。



「僕が中等部2年の時に聖学に入学したのは日本に来たのがその時期だったからです」

「え?」



日本に来た?

中2の時に?



「僕はそれまでドイツで母と母方の祖父母と暮らしていました。それまで父と呼べる人間とは一度も会ったことがなくて、でも僕の顔立ちからして父親にアジア系の血が流れていることは子供心に感じていました」

「……それが、どうして日本に来ることになったんですか?」

「母は父の愛人でした。前妻が病死し、その後祖父も亡くなり、父は母を日本に呼び寄せ僕達を正式に皇の籍に入れたんです」



九澄先輩は淡々と言葉を並べる。
自分のことなのにまるで他人事のようだ。



「父には前妻との間に子供がいました。4歳年上の義兄は生まれた時から皇の後継者になるべく徹底した教育を受けて来たんです。そんな義兄からしたら僕の存在は疎ましく危機感を覚えたことでしょう。でも僕にとって皇の名前はただのオマケみたいなものだったので皇の後継者争いに興味はありませんでした」



いや、感情を押し殺しているのか。

やっぱりいつもの九澄先輩らしくない。



「しかし何を血迷ったのか、父は次期後継者に僕を指名したんです。幼い頃から英才教育を受けて来た義兄を差し置いて。それがきっかけとなり僕の存在は一気に政財界に知れ渡りました。当然義兄との関係は最悪で到底家族なんて呼べるものじゃない」

「………」



言葉が見つからない。
いや、何も言うべきじゃないな。
中途半端な言葉は気休めにもならない。



でも何も知らない俺に話すと言うことはそう言うことなんだろう。


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