歪んだ月が愛しくて1



「だから義兄は常に僕の粗探しをして失敗を見付けては人の揚げ足を取り僕が次期後継者に相応しくないことを周囲にアピールしているんです。義兄はまだ次期後継者の座を諦めていないんですよ。そんなもの熨斗付けてくれてやりたいところですが…。今日も月に一度の食事会の日でしてね。母はいいとして何が楽しくて父と義兄と食卓を囲まなければいけないんでしょうかね」

「……嫌、なんですか?」



何が、なんて言わなくても分かる。



「面倒臭いじゃないですか人の上に立つのって。だから父には何度も意見しているんですけど一向に聞き入れてもらえず」



「本当頑固な人なんですよ」と溜息を吐く。
その声は無機質なもののように淡々と、でもどこか寂しそうな感じにも聞こえた。



「でもやめたんです、足掻くのは」

「やめた?」

「無駄な抵抗をね」

「……開き直ったんですか?それとも諦めたの?」

「、」



途端、九澄先輩が息を飲むのが分かった。
でも彼はそれを諭られまいと瞬きを数回して口角を上げた。



「……他人に決められた道を歩くなんて性に合わないんですよ」



それが九澄先輩の決断。



「だからと言って何でもかんでもヤダヤダと駄々を捏ねる子供と一緒にしないで下さいね。僕は自分の道は自分で決めます。他人に強制されるわけでもなく、上手に丸め込まれたわけでもなく、目の前に一筋の道があって行き先が決まっていたとしてもそれをどう進むかを決めるのは僕だ」



それが九澄先輩の本心。



「これが、僕の決めた道です」



ずっと木漏れ日のような人だと思っていた。
穏やかで優しくて他人を気遣える人だと。
その第一印象は今も変わらないけどそれだけじゃないと言うことも分かった。
今まで知らなかった本当の彼が一瞬だけ見えたような気がした。



「だから今回のように僕の支配下で問題を起こされては困るんです。危険分子を早めに摘んで置かなければいつまたどこで火種を蒔かれるか分かったものじゃないですからね。恐極のことも、さっきのバカ共も、立夏くんが気にする要素は1ミクロもありませんよ。僕は自分のために背負ったんです。誰も文句が言えない完璧な“皇”になるために」



でも、やっぱりそれは重たくて。



「背負うことで重荷が増えようともそれを決めたのは僕です。だから最後まで責任を持って背負い続けますよ」



いつかその重圧に押し潰されてしまったら…。



「僕はもう逃げない」



壊れてしまう。


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