歪んだ月が愛しくて1
月のこと。家族のこと。将来のこと。
きっと正解も不正解もない。
ただ正しいと信じていなければ立っていられない時もある。
これまで九澄先輩はそうやって自分自身を保って来たんだ。
だから「逃げない」と言い切れる。
九澄先輩は強い人だ。
でも…、
「……すいません。俺には、よく分かりません」
俺は九澄先輩とは違う。
同じ経験をしていない俺の考えは想像の域でしかない。
「そんな経験したことない、から…」
でもやっぱり人の人生を左右する決断をすることはまだ高校生の彼には重圧だと思う。
「だからちゃんと理解してあげられない」
理解したいなんて失礼だ。
身勝手にもほどがある。
「だけど」
見ているだけなんて無理だ。
ほんの少しでも九澄先輩の心の澱に触れてしまった以上は。
自己満足とか、エゴとか、言われてしまえばその通りだが知ってしまったからにはもう見て見ぬふりなんて出来なかった。
「もう二度と…、そんな悲しい決断はさせたくないっ」
「………」
頼って欲しいと思った。
「俺には大した力なんてないけど」
こんな無力でちっぽけな俺にそんな価値なんてないけど。
「俺、護るから」
そっと九澄先輩の右手に触れる。
ああ、木漏れ日のような彼の手はこんなにも冷たかったんだ。