歪んだ月が愛しくて1
「そう言えばみーこはさっき何って言おうとしたの?」
「あ?」
今度は尊を問い質す番。
ヨージは何だかホッとした表情で俺の話を聞いていた。
「九ちゃんが出て行く前のことだよ。リカが尊の怪我のことで落ち込んでた時何を言い掛けたの?」
「………別に」
フイッと顔を背ける、尊。
これは尊が隠し事をしてる時の癖だ。
「嘘吐き」
ピクッと、尊が眉を顰める。
尊に凄まれたって今更怖くないもんね。
何年一緒にいると思ってんだよ。
「くくっ、野生の勘って奴かぁ?」
「誰が野生だ!」
「………」
尊は嫌味なくらい長い脚を組み直してカップに口を付けた。
「おいし?」
「……不味くはない」
尊はもう冷えてるはずのコーヒーを満足げに飲み干す。
何だかんだ言ってリカのコーヒーがお気に入りらしい。
(いいな…)
素直に羨ましいと思う。
コーヒーを淹れてもらえるからじゃない。
俺がリカを特別に想っているから…、だから“生徒会長専属”と言う鎖でリカを雁字搦めに縛ることが出来る尊が羨ましかった。
俺には独占欲なんてないと思ってたけどどうやら勘違いだったみたい。
「で、何隠してるの?」
「チッ」
「忘れてませんから〜」
態とらしくベーと舌を出して尊を挑発する。
「いい加減白状しろって。お前は自分を責め続けるりっちゃんにムカついてたんだろう?」
「え、ムカついてたの?」
尊が、リカのことを?
「……そんなんじゃねぇよ」
「それで隠してるつもりかよ。顔にモロ出てたぜ」
「お前と一緒にすんな」
「いんや、あれはマジで顔に出てたって。人を散々コケにしやがったくせに自分だって全然隠せてねぇじゃねぇか」
それは言えてる。
結局俺達の中で隠し事が上手なのは九ちゃんだけか。
「ヨージのことはどうでもいいけど、まだ白状しないわけ?」
「どうでも良くねぇよ!」
「ヨージの話はさっき終わったじゃん。ターンエンドだよ。今更ぶり返すなって」
「だから勝手に終わらせてんじゃ…」
「煩ぇ」
そう言って尊は溜息を零すと観念した様子で静かに話し始めた。
「……ムカついてねぇよ。ただ見ててイラつく」
それをムカついてるって言うんじゃないだろうか。
そう内心思いつつも言葉にしなかったのは尊の目がどこか遠くを見ているような気がしたからだ。
「アイツは自分が傷付けばいいと思ってる。恰もそれが当然でそうなることを望んでいる。本人に自覚があるかは知らねぇがな」
「リカが…」
「お前も薄々気付いてんだろう。ありゃ典型的な自己犠牲主義者だ、それも重症な。さっきのアレも酷かったしな」
「………」
自己犠牲主義者か…。
ヨージが言うことも分からなくはない。
確かにそう思う節はいくつもあった。
白樺の時も、恐極の時も、さっきのことだって悪いのはリカじゃなくてあのスキンヘッド達なのにリカはいつも自分を責めてばかりいる。
まるで過去に犯した罪を償っているかのように徹底していかなる時もその姿勢を崩さない。