歪んだ月が愛しくて1
「てかさっき九ちゃんに何頼んでたの?」
「今回の黒幕の素性を探れってことだろう。りっちゃんにあーんなことして王様が黙ってると思うか?」
「思わない」
「勘違いすんな。誰であろうと俺の庭で好き勝手させるつもりはないだけだ」
「はいはい、そう言うことにしておきまちょうね〜」
「殺すぞ?」
「それよりも俺が気になんのはりっちゃんの方だ」
「リカ?リカの何が気になるって言うのさ?」
「新歓の時から思ってたんだけどよ、何でりっちゃんって喧嘩出来んだ?可笑しいだろうあの形で」
「た、確かに…」
「………」
俺も一度は疑問に思ったことがある謎。
それは何でリカが喧嘩慣れしてるのかってことだ。
新歓の時もさっきも、リカの動きは素人とは思えないほど軽やかで動きに無駄がなかった。
ただあまりにも綺麗に決めちゃってくれるから“強い”と言うよりも“綺麗”の印象の方が強くてこれまで深く考えないようにしてたけど、ヨージが言うように普通に考えたら可笑しなことだよな。
「尊、お前は何か聞いてねぇの?新歓の時やり合ったんだろう、俺は見てなかったけど」
「……子供の頃、何か習ってたとか言ってたな(嘘)」
「あ、そう言えば俺もそんなようなこと聞いたかも」
「マジか」
「(マジか…)」
「うん、マジマジ。そっか…、それで喧嘩出来るんだね。良かったリカがヤンキーじゃなくて」
だってリカがヤンキーだったら格好いいかもしれないけど危なくて見ていられないもん。
「ふーん…」
「まだ納得出来ねぇの?」
「いや、まあ…、本人がそう言ってたならそうなのかもしれねぇけどよ…」
「なーんかしっくり来ねぇんだよな」と呟くヨージに尊が言う。
「今は立夏のことよりもあのハゲだ。奴は今どこにいる?」
「頼稀がどっかに連れてったみたいだよ」
「チッ、また“B2”か…」
「まあ、前回もみすみす逃しちゃってるしな」
「あれって結局“B2”の仕業だったの?」
「本人は否定していたが実際のところ奴等を連れ去る理由があるのは“B2”だけだ。とは言え“B2”がやった証拠はどこにもないがな」
「ヤダヤダ、同じ鉄は踏みたくないね〜。あれ以来王様の機嫌が悪いの何のって…、りっちゃんがいない時だけ」
「確かにみーこがピリピリしてたらリカが余計に責任感じちゃうもんね」
「だから今回ので憂さ晴らししたいんじゃねぇの?」
「いやん、性格わっる〜い」
「憂さ晴らし?そんな可愛いもんじゃねぇよ」
今では当たり前のようになったこの光景も少し前までは考えられなかった。
王様自らが重い腰を上げるなんてことはまず有り得なかった。
たまに降り掛かる火の粉を払うことはあっても王様から仕掛けるような真似は殆ど記憶にない。
それだけ鬱憤が溜まってんのかな?ヨージが言うようにリカがいる時は色々と我慢してるんだろうな。
「見せしめだ」
その証拠に悪知恵を働かせてる時の尊ってスゲー生き生きしてるんだよな。
自信に満ち溢れた王様の表情に同じ男ながら見惚れてしまった。
「性格悪いどころの話じゃねぇな?」
「リカに見られたら一発で嫌われちゃうかもね〜」
「……うっせ」
「褒め言葉だよ」
「そんじゃまずは風魔を捜さねぇとな」
「頼稀からハゲを引き渡してもらえばいいんだよね?」
「手段は問わない。早急に取り掛かれ」