歪んだ月が愛しくて1



「なあ、そう簡単に飽きなかっただろう?」

「……しつこいだけじゃん」

「そうとも言うな」



でもそのしつこさに根負けしたのは間違いなく自分だ。

あれほど深く関わらないと決めていたのに、俺はまた…。



「てか今は覇王じゃなくて掃除な、掃除」



もう二度とあんな想いはしたくない。



それだけなのに。

それだけだった、はずなのに…、



「立夏?」



ギュッと、ブレザーの袖を強く握って顔を伏せる。



楽しいなんて思っちゃいけない。

ここにいたいなんて間違っても思っちゃいけないんだ。



「おい、どうした?調子悪いのか?」



絶対に。



「………変」

「は?変って…」

「そのエプロン。全然似合ってないから脱いだ方がいいんじゃない?」

「悪かったな似合わなくて。てかお前…」

「ん?」

「……ま、今は誤魔化されてやるけどよ」

「何言ってんの?頭大丈夫?どうでもいいからエプロン脱げば?」

「だから脱がねぇって。俺の一張羅が汚れるだろうが」

「そのヨレヨレのスーツが?」

「うっせー。無駄口叩いてないで手伝え悪ガキ」

「手伝うけどさ、まさかこの広い部屋を俺だけでやれと?」



何時間掛かると思ってんの?

業者入れた方が効率良くないか?



「誰がお前だけって言った?」

「え、他の人も巻き込んでんの?」

「何ガッカリしてんだよ。俺と2人っきりがいいからってそんな物欲しそうな顔すんなよ。抑えが効かなくなるだろう?」

「別にガッカリなんてしてないけど」

「安心しろ。いくら俺でもここじゃお前に手は出さねぇよ。これでも一応先公だからな。ま、その保険としてだ」

「誰が保険だ」



不意に準備室の奥から聞き慣れた声がした。



「あ、頼稀」

「アイツが保険だよ」

「……アンタ、それで俺を呼んだわけ?」



頼稀は当然のように不満を漏らす。
でもその手にはしっかりと掃除用具が握られていた。



「頼稀、意外と似合うね」

「どう言う意味だよ」


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