歪んだ月が愛しくて1
「で、どこを掃除すればいいの?」
「おっ、漸くやる気になったか」
「端っからやらないとは言ってないよ」
その言葉に満足した紀田先生はまたもや俺の髪をグシャグシャと掻き回した。
「お前本当可愛いな」
「喧嘩売ってんの?」
「じゃあ俺は資料室から来週使う資料を持って来るからお前等は本棚にスペース作っとけよ。ついでに部屋の掃除も宜しく」
「え、無視?てか全部丸投げじゃん」
「ふざけんな。何で俺がそんなことまで…」
「お前はもう帰ってもいいぞ。お前をここに呼んだのは立夏を釣るための餌だしお前がいねぇ方が立夏に手出しし易いしな」
「……態とか?」
「さあな」
そう言って紀田先生は台車を持って準備室から出て行った。
残されたのは俺と頼稀の2人だけ。
「チッ、あの野郎…」
紀田先生の軽快な後ろ姿に頼稀は忌々しそうに睨み付けていた。
「紀田先生のこと嫌い?」
「好きではない」
「一緒じゃん」
「気に食わねぇんだよ。いくら初代だからっていつまでもでかい顔しやがって」
「そう言えば昔やんちゃしてたって未空が言ってたけどどこの初代サマなの?」
「“B2”」
「………は?」
「だからアイツが“B2”の初代総長なんだよ」
「え、マジ?」
「マジ」
知らなかった。
まさかあの紀田先生が“B2”の初代総長とは。
「だったら余計に初代にあの態度は不味いんじゃねぇの?」
「族は縦社会、目上の者を敬えってか?俺そう言うの興味ねぇから」
「興味あるないの問題?」
「そうじゃなくて俺が“B2”にいるのはアゲハさんがいるからだ。アゲハさん以外に従う気はない」
「……つまり頼稀にとっての主君はアゲハだからアゲハ以外に従う気も敬う気もないってことね」
「ああ。初代とか先代とかどうでもいい。まあ、アゲハさんの手前そう言うのは前面に出さないが」
「紀田先生には出してるけどね」
「あれはあっちが悪い」
「何で?」
「……アイツが、お前に構い過ぎるから」
「……………過保護か」
その一言で理解出来た。
俺のことを俺以上に知っていると豪語する頼稀だけに呆れて物が言えない。
アゲハのことだけ考えてればいいものを何で俺のことなんか気に掛けてくれるんだろう。
有難いことなのに手放しに喜べない自分がいた。
「ああ、何で俺の周りには族ばっかなんだろう…」
「ゴキブリホイホイならぬ暴走族ホイホイだな」
「ゴキブリと一緒にしちゃう?」
「例えだよ」
「嫌な例えだな」
皮肉めいたことしか言えない。
そんな自分が本当に嫌いだ。