歪んだ月が愛しくて1
「あ、ああの、ぼぼぼく…っ」
「……うん。少し落ち着こうか」
ああ、どうしよう。
西川くん絶対勘違いしてるよ。
別に疾しいことしてたわけじゃないけど何て説明しようかな。
「西川、お前が何を勘違いしてるのか大体予想付くが違ぇからな」
「へ?」
徐に頼稀は俺から距離を取って本棚に寄り掛かる。
「コイツとは何もない。少し込み入った話をしてただけだ」
「そ、そうですよね!風魔くんには佐々山くんがいますもんね!」
「何でそこでアイツが出て来んだよ…」
やっぱり頼稀と希が仲良いのは皆知ってんのか。
未空達だけならまだしも違うクラスの西川くんまで知ってるとなれば月の耳に入っても可笑しくない。
「あ…、あの!オ、オタクヤンキーさんっ!」
ずるっと、予期せぬ言葉に思わず漫画のようにズッコケた。
そんな俺の隣で頼稀は口元を抑えながら肩を小刻みに震わせて笑みを堪えていた。
「は、はいっ!?」
西川くんはキラキラと瞳を輝かせて俺を見つめる。
「………それって俺のこと?」
「はい!今学園内ではオタクヤンキーさんの噂で持ち切りですよ!」
「噂?」
「あ、それは…」
「新歓での神代会長とお前の戦いっぷりを見て眼鏡のくせに強いとか言ってる連中が騒いでんだよ。もしかしたらどっかの族に入ってんじゃないかってな」
「何だそりゃ?眼鏡=オタクかよ」
「バカ」
すると頼稀は小さな声で俺に耳打ちする。
「何暢気に構えてんだよ。いいか、そう言う噂が流れてるってことは何れ“鬼”の耳にも入る可能性があるってことだ。しかも肝試しに加えさっきのこともあってお前の存在は嫌でも注目されてんだぞ」
「あー…」
確かにその噂は厄介だな。
でも出所が自分なだけあって誰も責められない。
後悔先に絶たずとはよく言ったものだが正にその通りだ。
こんなことになるなら調子乗って勝負なんて受けなければ良かった。
無計画な上自分善がりな俺に頼稀が怒るのも無理はない。