歪んだ月が愛しくて1



「まあ、その噂もさっきの件で確実なもんになっちまったけどな」



さっきの件。

そう言われて咄嗟に西川くんに視線を戻した。



「……怪我、なかったんだよね?」

「は、はい!どこもありません!」

「そう…」



でも制服のズボンが汚れている。
特に膝の辺りが汚れているから突き飛ばされた時に地面に膝をぶつけたのかもしれない。
ただの打撲ならいいが傷になっていたら長引くから厄介だな。



「あの…っ」



そんなことを考えていると不意に声を掛けられた。
その声に顔を上げると反対に西川くんは勢い良く頭を下げた。



「あっ、ありがとうございました!」



西川くんの奇行と大声にビクッと肩が跳ねた。



「僕、あの時ちゃんとお礼が言えなくてごめんなさい!でも、本当はちゃんと伝えたくて…」

「………」



西川くんは頭を下げたまま一向に顔を上げようとしない。
そんな彼の身体が小刻みに震えていた。



あの時もこんな風に震えていたな。

思い出すのも怖いくせに無理しちゃって…。



「僕のこと助けてくれて、本当にありがとうございました!」



本当はお礼を言われることなんて何一つしていない。
当然のことをしただけ…なんて気取るつもりはないが、俺は西川くんじゃなくても同じことをしただろう。



だって、もう二度と目の前で誰かが傷付くところなんて…、



『…ごめん、シロ……』



……見たくない。



少なくともこの手が届く範囲は守りたい。



守れる範囲にいるのに守れない。

それが何よりもキツいことを俺は知っているから。



「無事で良かった…」



そんな俺の言葉に西川くんの頬がほんのりと色付いた。


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