歪んだ月が愛しくて1
淡々と作業を進める頼稀の後ろ姿を見て無意識に溜息を吐く。
(まだ怒ってるかな…)
頼稀を怒らせた自覚はある。
本当自分でも何やってんだろうって思うけど。
俺だって本当は分かってるよ。
頼稀が俺のことを気遣ってあえてあんな風に言ったってことくらい。
「頼稀」
……でも、何でだろう。
『それが神代会長の狙いなんだよ。お前にそう思わせることで変な罪悪感を抱かせて雁字搦めにして身動きを取れないようにする。逃げられないように追い詰めるようにジリジリと…。自分のお気に入りなら尚更だ』
その言葉を素直に受け入れることが出来なかった。
願望かもしれないけど。
「……さっきの話の続きだがお前は狙われてるんだ。今はまだ正体がバレてなくてもお前が下手を打てば忽ち奴等はお前を標的にする。油断するな。俺はもう…」
ピタッと、本を持つ頼稀の動きが止まった。
「お前に、あの日を繰り返させたくない」
「………」
頼稀は作業の手を止めて切なげな表情で俺を見つめる。
でもその表情とは裏腹に真摯で真っ直ぐな言葉だと思った。
「そのためなら俺は…」
独り言のような呟き。
無意識なのか、本を持っていない方の拳を固く握り締めていた。
「どこまで知ってんだか…」
窓から射しこむオレンジ色。
やがて日が沈み闇に染まる。
かつて夜は俺とアイツ等の世界だった。
今はたった独りで夜の闇に沈む。
……それでいい。
もう二度同じ過ちは繰り返さない。
頼稀も、遠く離れた場所にいるアイツ等も、そして新たに出会った彼等のことも。
『…ごめん、シロ……』
もうあんな想いはしたくない。
そのための境界線だ。
……大丈夫。
まだ引き返せる。
(勘違いさせないで…)