歪んだ月が愛しくて1
一通り終えた後、俺はスキンヘッド達をメンバーに任せて一旦自室に戻るため西棟を出た。
「よっりきー!」
西棟を出た直後、誰かに名前を呼ばれて視線を上げれば…。
「……未空か」
「おっと、俺も一緒だぜ」
と、御幸陽嗣もいた。
面倒なのに見つかった、と同時に。
「頼稀こんなところにいたんだ!捜したよ!」
そろそろだと思っていた。
「何の用だ?」
覇王が俺を捜していた理由は見当が付く。
寧ろ一つしかない。
「さっきの侵入者だよ!頼稀がどっかに連れて行ったって聞いたから捜してたの!」
「だから?」
「察しが付かないおバカじゃないでしょうが。ここは大人の対応といこうぜ」
大人ね…。
それを覇王が言うか。
「あのね、侵入者をこっちに渡して欲し…「断る」
スパッと、即答してやった。
「えっ、な、何で…?」
すると俺が断ると思っていなかった未空は予想外の返答に困惑した。
渡すわけないだろう。
奴等は俺達の光に手を出した。
アゲハさんの憧れであり目標であり、夜の世界に生きる者なら一度はあの強さに焦がれるであろう美しい月に。
アゲハさんに指示されなくても今回ばかりは見逃せない。
「奴等の素性はこちらで調べる。分かったら報告すればいいだろう」
立夏を人質にしたスキンヘッド達を覇王が見逃すはずがないのは分かっていた。
「その方が覇王も手間が省けていいんじゃないか。覇王ともあろう者がたった1人の新参者のために態々貴重な時間を費やしてやることもないだろう」
でもそれに協力してやる義理はない。
「手間なんかじゃないよ!リカを傷付けた奴は俺だって許せないもん!」
「そうそう。それにうちの王様が黙ってるはずないでしょうが。何たって奴等は“王様のお気に入り”に手出したんだからよ」
「みーこのじゃない!俺のリカだよ!」
「どっちでもいいわ」
「………」
スキンヘッド達を覇王に引き渡さないのは他にも理由があった。
ただのゴロツキならいくらでもくれてやる。
だが相手が“鬼”なら話は別だ。
「兎に角侵入者のことはこっちに任せろ。覇王は自分の仕事を全うしろ」
「いや、だから俺達にも…」
「それに奴等はもうここにはいない」
ま、嘘だけど。
「え、いないの?」
「どこに連れてっちゃったのかなぁ?」
「外で待機させていた仲間に回収させたから今頃お灸を据えられてどっかに転がってるだろうよ」
覇王に“鬼”は渡さない。
それは立夏のためであり俺のためでもあった。