歪んだ月が愛しくて1
「あ、噂と言えばもう一つ…」
「もう一つ?」
聞き捨てならない。
また不本意な噂を広められたら堪ったものじゃない。
「りーっか」
「立夏くん」
途端、希と葵が満面の笑みで俺の名前を呼ぶ。
「え、な、何…?」
怖いんだけど。
「昨日のこと聞いたよ」
「なーに危ないことしてんのかなー?」
ああ、そのことか。
「大丈夫だよ。人質にされた西川くんに大きな怪我はなかったし、巻き込んじゃった頼稀とアゲハにも怪我は…「「そっちじゃない!!」」
キーンと、鼓膜に響く声。
希と葵に耳元で怒鳴られて咄嗟に両手で耳を塞いで目を瞑る。
恐る恐る目を開けた先には見るからにご立腹の様子の2人がいた。
……何で?
「何危ないことしてんだよバカ!」
「一歩間違ったら大怪我じゃ済まないんだからね!」
「で、ですよね…」
まさか昨日に引き続きお説教されるとは思わなかったから油断した。
新歓の事件以来どうも過保護気味なんだよな、この2人。
「ですよね…、じゃない!何他人事みたいなこと言ってんだよ!全然反省してないだろう!」
「僕達凄く心配したんだからね!」
「あー……うん、迷惑掛けてごめんな」
「そうじゃない!謝る理由が全然違う!」
「迷惑とかそう言うことじゃないでしょう!」
「え、とー……怪我してないよ?」
「「だからそうじゃないって!!」」
「……ごめん、2人が何言いたいのか全然分からない。通訳プリーズ」
「自分で考えろ」
「今回ばっかは助けてあっげなーい」
「何で!?だって俺昨日ちゃんと皆に怒られたじゃん!」
「「自業自得」」
あうち。
「立夏は他人を放って置けない性分なのかもしれないけど今回のことはやり過ぎ!覇王に怒られたのだって当然だからな!」
「もう絶対あんな危ないことしちゃダメだよ!」
机から身を乗り出して俺に詰め寄る、希と葵。
弁解の余地すら与えられないまま2人の小言は延々と続く。
正直途中から何言ってるのか分からなくて聞き流していた。
「僕達だって心配してるんだから…」
でもその言葉だけははっきりと聞こえた。
『頼むから、もっと自分のことを大切にしろよ』
「……うん」
嬉しいような、悲しいような。