歪んだ月が愛しくて1
「あ…」
不意に遊馬がドアの方を指差して声を漏らした。
気付けば教室前の廊下には多くの人だかりが出来ていた。
「何だ、あれ?」
「あの人…」
その人だかりの中心には一際目を引く人物がいた。
黒髪のショートで190cm以上ある長身にすらっとした細身の体格は一見モデルのようだ。
「綺麗な人…」
「あの人は3年S組の我妻吾郎先輩。覇王親衛隊の副隊長で現役のモデルだよ」
成程。通りで綺麗なわけだ。
「確かに普通の野郎よりは綺麗な顔してるけど、俺は藤岡くんが一番綺麗だと思うよ」
……ん?
デジャブ?
「……目、大丈夫?」
「何でだよ。藤岡くんこそそろそろ自覚した方がいいよ」
「自覚?」
「自分の容姿がどれほど整ってるかもっと自覚してってこと。未空や頼稀くんにも散々言われてるだろう」
「言われたような、言われてないような…」
「言ってたよ!」
「汐、諦めろ。藤岡くんにその手の話題はハードルが高い」
「はぁ…」
汐は腰に手を当てて大袈裟に溜息を吐く。
俺としては何で呆れられてるのか分からないんだが。
「藤岡くんもそこじゃなくて親衛隊ってとこに突っ込もうよ。これまでも色々あったんでしょう?」
「まあ…」
遊馬の気遣う声に過去を振り返る。
2人がどこまで知ってるか分からないが俺が覇王親衛隊のターゲットになっていることはクラスメイトなら誰もが知っていることだった。
「やり方が汚ぇんだよ。男ならタイマン張れっての」
「藤岡くんなら楽勝だよね」
「は、ははっ…」
楽勝でしたけどね。
そうとは言えず笑って誤魔化した。