歪んだ月が愛しくて1

QUEEN vs 女王様




立夏Side





「どこに向かってんの?」



我妻先輩の後について階段を上りながらその背中に向けて質問を投げ掛ける。



「………」



無視か。

案内すると言った割にはいい加減だな。



見上げると改めて我妻先輩の身長の高さが分かる。
目を合わせるだけで首がつりそうだ。



「せめて行き先くらい言えよな…」



ボソッと呟くと。



「……来れば分かる」



だからこっちは行き先を聞いてんだっつーの。



「遅れているぞ」



文句言ってやりたい気持ちをグッと押し殺して、俺は我妻先輩の後を大人しくついて行くことにした。
それから歩くこと10分。我妻先輩に連れて来られたのは西棟の5階にある茶室だった。



「ここって…」

「………」



我妻先輩は無言で襖を開ける。
そこには若草色の着物に身を包んだ黒髪の美少年が畳の上で正座して俺を待ち受けていた。



「どうぞ、こちらに」

「え、あ、はい…」



凛と透き通るような声。
まだ声変わりをしていないような声色に思わず女性かと錯覚した。
我妻先輩の後に続いて茶室に足を踏み入れると我妻先輩は無言で畳の敷かれた座布団を指差した。



「……座れってこと?」



コクッと我妻先輩が頷く。
俺は言われた通り座布団の上に正座して落ち着きのない様子で周囲を見渡す。
然程広くない10畳ほどの茶室に障子の先に広がる美しい空中庭園。
ここが学園の施設であることを忘れさせるような清閑な空間に思わず引き込まれそうになる。

サササッと抹茶を点てる音が響く。
Mの字を描くように一気に点ててゆっくりと茶筅を引き上げる。
柔らかい上品な抹茶の香りが鼻孔を燻る。



「どうぞ」



スッと茶碗を差し出される。
腰を上げて茶碗の中を覗き込むと色鮮やかな緑色の中に自分が映っていた。



「………」



これは飲めと言うことなのか。
碌にお茶なんて飲まないから味なんて分かんねぇよ。



「そう固くならずとも捕って食うような下品な真似は致しません。まずはお茶を召し上がって下さい」

「………」



そう言って目の前のお茶を促された後、我妻先輩が無言で立ち上がった。
すると我妻先輩は一度茶室を出て1分も経たないうちに戻って来るやその手にはお盆が乗っていた。



「甘いものはお好きですか?」

「普通…」

「でしたらこちらも召し上がって下さい」



我妻先輩はそれを合図にお盆に乗せていたお茶菓子を俺のすぐ近くに置いた。


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