歪んだ月が愛しくて1



これは一体どう言う状況なんだろうか。
数分前に遡って思い返しても何でこの面子でお茶会なんてしなければならないのか分からない。



「安心して下さい。毒なんて入っていませんから」

「………」



ゆっくりと左手で茶碗を持ち右手を添えて一口含む。



「ゔっ」



舌の中にどろっとした抹茶の苦みが広がる。
続けて二口、それから一気に飲み干すように上を向いた。



「うぇ…」



それは素直な感想だった。
するとそれを見ていた和服美人さんが小さく微笑んだ。



「ふふっ、素直な人だ」



近くで見ると改めて綺麗な人だと思う。
まるで日本人形のように整った顔立ちに艶やかな黒髪が更にその美しさを強調しているように見えた。



「け、結構なお点前で…」



俺が見様見真似でそう言うと和服美人さんは深く頭を下げて「ありがとうございます」と返した。



「あの、今更だけど何で俺はここに連れて来られたわけ?そもそもアンタは…」

「私のことが気になりますか?」



そう言われて思わず言葉に詰まった。
まさか質問を質問で返されるとは思わなかった。



「……アンタ、誰?」

「やはり気付いていませんでしたか…」



和服美人さんは小さな声で呟く。



「吾郎が訪ねた時点で気付いていると思ったのですが」

「……何、アンタも有名人?だとしても誰もがアンタのこと知ってると思ったら大間違いだよ」



スパッと、言い切ってやった。
でも和服美人さんは一切表情を変えなかった。
とは言え彼は我妻先輩のように終始無表情と言うわけではない。
どちらかと言えば九澄先輩タイプでニコニコしてるくせに何考えてるか分かんない印象を受けた。



「でしたら何故私のお茶を飲んだのですか?」

「何故って…」



そう来たか。



「……何となく」

「不用心な方ですね」



その言葉に内心ムッとした。



「まさか毒入り?」

「まさか。しかし他人の言葉を無闇に信じるほど愚かなことはありません」



喧嘩売ってんのかコイツ…。

どうやら和服美人さんは俺を挑発したいらしい。



「そんなことを言うために俺をここに呼んだわけ?」

「いいえ。今日貴方にお越し頂いたのはこれまでの数々の無礼をお詫びするためです」

「無礼?何でアンタが…」



俺が首を傾げると和服美人さんはフッと口元を緩めた。



「それは私が覇王親衛隊の総隊長だからですよ」



総、隊長…。



「私の名前は桂木蛍(かつらぎけい)。茶道部部長で覇王親衛隊の総隊長を務めております」

「アンタが…」



とうとう親玉の登場か。
まさかこんな早く接触するとは思わなかった。



「そして彼は同じクラスの我妻吾郎。彼には私の側近として覇王親衛隊の副隊長と茶道部の副部長を兼任してもらっています」

「………」



つまりこの2人が覇王親衛隊の2トップ。

のこのことついて行ったらとんだ根城に招かれたものだ。



「気を悪くしないで下さいね。彼は昔から口数が極端に少ないので」

「………」

「……別に。それで無礼って何?」



でも思いの外俺の心は落ち着いていた。
不本意だが白樺と月のお陰で耐性が付いたのかもしれない。
この場に煩い取り巻き共がいないってのも理由の一つかもしれないが。



「これまでに我々覇王親衛隊は藤岡さんに対して数々の無礼を働いてしまいました。隊員を統率しなければいけない幹部までも己の私利私欲のために貴方に危害を加えようと企み、総隊長として深く反省しております」



何を言い出すかと思ったらそんなことか。



「これまでの無礼の数々は全て総隊長である私の監督不行き届きが招いてしまった結果です。藤岡さんには大変ご迷惑をお掛けしました」

「別に」



謝られても困る。
それで俺への不満が解消するわけでもないのに。
別に俺のことを悪く言われるのは構わない。
今までだってそうだった。


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