歪んだ月が愛しくて1
桂木先輩は音を立てずにその場から立ち上がると両手を堅く結んで俺を鋭い視線で射抜いた。
その後ろで我妻先輩は一切口を開くことなくただただ桂木先輩を見つめていた。
「貴方が言うように私は尊様をお慕いしております。覇王親衛隊を設立したのも全ては尊様のため。あの方により良い快適な学園生活を送って頂くために微力ながらもそれをお手伝いするのが私達の役目です。そのためには尊様にとって不利益な者を排除しなくてはなりません」
揺るぎない強い眼差し。
そこには総隊長としての想いと桂木先輩自身の想いが入り交ざっていた。
「白樺さんと恐極さんは今回の件で覇王親衛隊の名に傷を付けました。即ちそれは尊様の顔に泥を塗ったのも同じことなのです。しかも恐極さんはよりによって尊様に怪我を負わせた。これが許されることだと思いますか?そんな彼等を蔑ろにして何が悪いと言うのですか?」
「………」
『同情なんていらないんだよ!』
ああ、この人も白樺と同じなんだ。
ただ好きな人のために必死になって、その人の背中を無我夢中で追い掛けて。
「私は、彼等を許せない」
嫉妬も独占欲も人間誰しもが持っている感情だ。
俺だって…、胸を張って言えたものじゃないが確かに持っていた。
「……アンタも、ちゃんと人間なんだな」
「え?」
「いいと思うよ、そうやって自分の感情をぶちまけるの」
「っ!?」
途端、桂木先輩の表情が崩れた。
……あ、ちょっと面白いかも。
「それに誰もあの2人を庇えなんて言ってないよ。俺だって人に褒められるような生き方してないから何が正しくて何が間違っているかなんて分からないしそんなこと誰にも決められない。でも会長を好きなアンタならあの2人が何であんなことをしたか分かってんじゃないの?」
「………」
「私利私欲のためだっていいんだよ。そこに自分の信念があるなら」
「信念…」
弱々しい呟きが響く。
まるでその言葉の意味を確かめるかのように声に出していた。