歪んだ月が愛しくて1
「これから先も貴方が生徒会役員である以上、貴方を妬み、憎しみ、逆恨みする者は必ず現れます」
おいおい、どんな予言だよ。不吉だな。
「それが何?今更嫌われたって何とも思わないけど」
「本当に?」
「は?」
その言葉に分かり易く眉を顰めた。
「人は独りでは生きていけません。誰もが虚勢を張って強くあろうと生きている。藤岡さんもそう。強がっているようですが本当は誰かに認めてもらいたいと思っているんでしょう?」
「、」
―――行かないで。
「嫌われたくない、愛されたと…」
―――独りにしないで。
頭が痛い。
何かが俺の中に入って来る。
忘れたくても忘れられない記憶が俺の心を蝕む。
……クソ、しっかりしろ俺。
惑わされるな。
心を突かれてもぐらつくな。
俺はもうあの頃の俺じゃない。
「独りぼっちが怖いから」
……違う。
独りが怖いんじゃない。
俺が怖いのは―――、
「……ちょっと、僕まで巻き込まないでくれる?」
「事実を言ったまでです。貴方だって未だにその内に秘めた想いを持て余しているのでしょう。でしたら私の忠告は聞いて置くべきですよ藤岡さん。手綱が切れたじゃじゃ馬女王様にいつ寝首を掻かれるか分かりませんからね」
「澄ました顔して平然と喧嘩売って来るクイーン様に言われたくないよ」
フッと、口角が上がる。
2人のやり取りが面白かったからじゃない。
ただ彼等が互いに牽制し合ってくれたお陰で惑わされずに済んだ。
「寝首ね…」
「……何が、可笑しいんですか?」
可笑しいよ。
だって、
「御手洗くんはそんなことしないから」
俺が怖いのは独りになることじゃない。
ましてや誰かに嫌われることでも、誰にも愛されないことでもない。
俺が怖いのは…、
『…シ、ロ……』
大切なものを失うことだけ。
ただそれだけだ。
「……先程も忠告したでしょう。無闇に他人を信じては痛い目を見るのは自分ですよ。どうか身の丈に合った行動を心掛けて下さい。これ以上痛い目を見たくなければね」
「アンタね、いい加減に…っ」
「ご忠告どうも。でも誰を信じるかは自分で決めるからご心配なく」
「………」
ジッと桂木先輩の視線が俺へと注がれる。
そんなあからさまに探るような視線を送られても何も隠してないんだけどな。
でもヒシヒシと感じる視線は桂木先輩だけじゃなかった。
隣にいる御手洗くんもまるで可笑しな人を見るような目で俺を見つめていた。
いやん、照れちゃうじゃん………じゃなくて。
「それと不幸の手紙とかダサいよ。今時流行らないから」
最後にそれだけ言い残して俺は御手洗くんの腕を引いて茶室を後にした。