歪んだ月が愛しくて1



吾郎Side





「不幸な手紙?………まさか、」

「恐らく彼の仕業だろうね」



蛍は開けっ放しの襖を見つめたまま平然と言う。



「……いいのか?」

「私が何を言ったところで聞く耳を持つとも思えないだろう。特に御手洗さんの場合はね」

「………」



それでもまだ伝えたいことがあるように見えた。
藤岡の存在が覇王にどんな影響を齎すか、それを見定めるのが蛍の使命だと言っていた。
御手洗に邪魔されたせいでそれは叶わなかったが。



「でも以前と比べたら大分丸くなったのかな」

「藤岡を連れ戻しに来るくらいだからな」

「ふふっ、以前の御手洗さんからは想像も付かないね。これも私の元から巣立ったお陰かな」

「……後悔してるのか?」

「まさか。でも惜しい人材だったとは思っているよ。吾郎を除けば彼ほど私の考えに共感してくれた人はいなかったからね」



蛍と御手洗が出会ったのは2人が初等部の時だった。
蛍の神代を想う気持ちに共感した御手洗が中等部に進級したと同時に蛍と一緒に覇王親衛隊を結成した。
当時蛍は覇王親衛隊の総隊長と言う立場で幹部の統一を図り御手洗に神代専属部隊のリーダーを任せていたが、それが1年前突然御手洗が覇王親衛隊を脱退した。詳しいことは知らないが蛍と御手洗の間で一悶着あったのが原因のようだ。



「ねぇ、吾郎はどう思う?尊様は藤岡さんのことを…」

「分からない。ただ…」

「ただ?」

「神代は藤岡の存在を誰よりも認めていると思う。そうでなければ親衛隊を動かすはずがない」

「……そうだね。吾郎の目から見て藤岡さんはどう映った?」

「………」



藤岡の印象は良い意味でも悪い意味でも普通。
特徴と言えるものは大きな黒縁眼鏡と人より容姿が整っていることだけ。正直それだけだった。



あの時までは。



『信用してるわけじゃないから』



その一言で藤岡への印象がガラリと変わった。



ズシン、と。

まるで重たいものに押し潰されるような息苦しい圧迫感。



どろりと、グレーの瞳が暗く溶けたような気がした。



あのたった一瞬で暗くて重いものが嫌でも伝わって来た。



「……不思議な奴だ」



蛍はどう言うつもりで藤岡を「不思議」と例えたのか。
確かに藤岡の編入経緯や噂には色々と気になる点があるし、蛍も藤岡のような人種を相手にするのは初めてだろうから物珍しいと言う意味で「不思議」と例えたのかもしれない。



(だが俺の場合は…)



結果的に蛍は藤岡に興味を持った。
しかしそれには不安要素が多過ぎる。



どろどろと、グレーの瞳が暗く暗く沈んでいく。

その反面、氷のような凛としたオーラを放っていた。



そんな二面性が時折不気味だった。



「……珍しいね、吾郎がそんなこと言うなんて」



すると俺の台詞に蛍が目を丸くさせた。



「可笑しなことを言ったか?」

「吾郎が他人に興味を持つなんてね。明日は雪かな」

「……明日は晴れだ」

「冗談だよ」



「相変わらず頭固いな」と言って蛍は口元に手を添えて上品に微笑んだ。


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