歪んだ月が愛しくて1
「蛍、お前はどうなんだ?」
「どうって?」
「藤岡のこと、蛍はどう見てる?」
「うーん…、一言で言うなら不思議な子かな」
「一緒じゃないか」
「だって吾郎も聞いてたでしょう。この私に面と向かって説教するなんてとんだ怖いもの知らずじゃないか」
「……図太い」
「そうとも言うね。でも私はそれ以上に驚いたことがあるんだよ」
「昨日のことか…」
昨日高等部の敷地内に暴漢が侵入した。
幸い怪我人が出来ることなく事態は収束したのだがその最前線に立ったのがどうやらあの藤岡だったらしい。
「私が驚いたのはね、藤岡さんの無謀過ぎる行動力と一際目立つ身体能力の高さにだよ」
しかも藤岡は自ら人質交代を申し出たとか。
一歩間違えれば自分が大怪我をしていたかもしれないのに藤岡は自己の犠牲も省みず赤の他人のためにその身を擲った。
正直それを聞いた時は信じられなかったし理解出来なかった。
そんなことをしても藤岡には何の得にもならないはずなのにどうしてそんな危険なことに態々自分から首を突っ込むような真似をしたんだろうかと。
ああ、だから不思議なのか。良くも悪くも判断しかねているのだろう。
「藤岡さんは生徒会役員としての責務を全うしてくれた。私としては今回の件を機に彼を認めてもいいと思っているんだよ」
しかし蛍はまだ藤岡の不気味さに気付いていない。
「でもまさかそれを白樺さんから報告を受けるとは思わなかったよ」
「……そうだな」
昨日の一件は全て白樺の報告によるものだった。
白樺は昨日の一件について詳細に報告して来た。
藤岡が自ら人質交代を申し出たこと。藤岡の作戦に九條院と風魔が手を貸したこと。そして主犯格の男に襲われそうになった白樺を藤岡が身を挺して助けたことを事細かに聞かされた。
お陰で蛍は藤岡に興味を持ち「会ってみたいな」等と漏らすものだから仕方なく藤岡を連れ出すことになったのだ。
初めは余計なことをしてくれた白樺に対して文句しかなかったが結論から言うと然程悪くなかった。
「昨日のことは下の子達にも教えてあげて。そうすれば少しは大人しくなるはずだから」
「分かった」
藤岡立夏。
善と悪を背負う者。
(面白い…)
不思議でも、不気味でも、それを見極めるのが俺の役目だ。
「……これからどうするつもりだ?」
「聞かなくても分かるでしょう」
「暫く様子見か…」
「分かってるならそのつもりで宜しく」
だからこそこんなところで潰されては困る。
呆気なく散ってはつまらないからな。
折角あの蛍が興味を持ったんだ。これを利用しない手はない。
だからもっと抗え。好きに暴れろ。
親衛隊でも何でもぶっ壊したらいい。
藤岡が注目されればされるほど蛍の興味もそっちに集中するだろう。
俺としてはあの男から注意を反らせれば何でもいいからな。
「……蛍」
「何?」
「もし藤岡が神代にとって不利益な人物となったらどうするつもりだ?」
「その時は排除するだけだよ」
その時まで存分に利用させてもらうぞ。