歪んだ月が愛しくて1
「兄ちゃん…」
予想通りとは言え伝票の名前を見た瞬間ぎゅっと胸が締め付けられた。
あの家を出てもう2日も経つのにこんなにも懐かしさが押し寄せる。
「へぇ、リカって兄弟いたんだ」
「……うん。兄と弟が」
「俺も妹が2人いるんだ。年子だけど結構仲良いんだぜ。立夏んところは仲良いの?」
「どう、だろう…」
頭に過るヴィジョンに身体が震える。
あの日を境に俺達兄弟は変わった。
俺の存在が兄ちゃんとカナの大切な人を奪いその平穏な日常を壊した、あの5年前から。
「てか、お前カードキーは持ってないのか?」
「カードキー?」
何それ?
「え、リカ部屋のキー貰ってないの?」
「……貰ってない」
「てことはまだ自分の部屋にも行ってないのか」
「だったらついでに寮長から貰えよ。今ならここにいるはずだから」
希は管理人室を指差して言った。
そう言えばさっき葵が「寮直って言ってね、管理人室には寮長かその代行の人が交代でいるはずだから何か寮内で困ったことがあったらそこに行くといいよ」とか言ってたっけ。
つまり扉に掛かってる札が今日の担当を表してると言うことか。成程ね。
「金持ちなんだから管理人くらい雇えばいいのに…」
変なところで節約すんなよな。
「節約」
「、」
ビクッと、頼稀の言葉に肩が跳ねる。
「とか思ってるか?」
エスパーか。
「顔に書いてあるぞ」
「……有り得ない」
風魔頼稀は鋭い。
一言で言うと侮れない人物だ。
「と言うのは冗談。何となくそう思っただけだ」
味方ならいい。
でも敵なら……いや、寧ろ敵に回したくないタイプだ。
「因みに管理人を雇ってないのは生徒の自主性を慮ってのことだ。安全面に関しては学園の外に数百人の警備が敷かれているから安心しろ」
「そう…」
……何考えてんだか。
ここは外じゃないのに敵とか味方とか。
バカげてるな。
「んじゃ、早速アゲハに会いに行こう!」
「あ、ちょっと…」